馬鹿は死ななきゃ直らない

落語は好きだし、講談もテレビでやっていれば見る。でも浪曲浪花節)というのは、とんと縁がなかった。でも、本屋でふと吉川潮江戸っ子だってねえ―浪曲師広沢虎造一代 (新潮文庫)』を手に取り、購入。面白かった。「森の石松--三十石舟」で知られる浪曲師、広沢虎造の伝記。「江戸っ子だってね」「神田の生まれよ」「酒飲みねえ、鮨食いねえ」とか、「馬鹿は死ななきゃ直らない」とかで戦前から戦後に掛けて一世を風靡した。特に、彼が講釈師と噺家の協力を得て、両者の特徴を取り入れつつ、新しい「浪曲」を生みだしていくところは、とてもスリリング。また、節回しやタンカ(語り)は巧いが、声量に問題があった彼が、マイクロフォンやラジオ、レコードといったテクノロジーによって、世に出て行くところなんかは、近代の表象文化--特にパフォーミング・アーツ--を考える上でも、重要だと思う。あと、興行の面では、浪花節中興の桃中軒雲右衛門と玄洋社とのつながりや、虎造と若き日の田岡一雄の関係なども興味深い。
で、所有しているCD-ROM『http://www.app-beya.com/taikan/index.html』に上記の音源があったので聴いてみると、なかなか面白い。節回しも格好良いし、発声法はまさにハウリン・ウルフヴァン・モリソン
ちなみに僕の「先の師匠*1」、ヘンリー・スミス師(日本史、Henry Smith's Home Page)は、最近、浪曲に入れ込んで、時々東京まで聞きに言っているらしい。『忠臣蔵』の受容史を研究しているうちにはまったとか。相変わらず興味の対象が広い人である。

*1:「せんのししょう」と読んで頂きたい。