漱石山房の猫

morohiro_s2005-08-28

その翌日吾輩は例のごとく椽側に出て心持善く昼寝をしていたら、主人が例になく書斎から出て来て吾輩の後ろで何かしきりにやっている。ふと眼が覚めて何をしているかと一分ばかり細目に眼をあけて見ると、彼は余念もなくアンドレア・デル・サルトを極め込んでいる。吾輩はこの有様を見て覚えず失笑するのを禁じ得なかった。彼は彼の友に揶揄せられたる結果としてまず手初めに吾輩を写生しつつあるのである。吾輩はすでに十分寝た。欠伸がしたくてたまらない。しかしせっかく主人が熱心に筆を執っているのを動いては気の毒だと思って、じっと辛棒しておった。

と『吾輩は猫である』にはある。苦沙弥先生は、絵は得意でないようだが、漱石先生はなかなか達者である。ちなみに絵の猫は、『猫』のモデルとなった猫ではなく、三代目だとか。《あかざと黒猫図》部分(神奈川近代文学館所蔵)。
ちなみに初代の猫が死んだとき寄せた漱石の句。
  この下に稲妻起こる宵あらん
「稲妻」とは猫の目の隠喩らしい。