覗き眼鏡

morohiro_s2005-09-27

A・D・コールマンという写真史家/批評家が、自著のタイトルで「レンズ・カルチャー」という言葉を使っていて(Depth of Field: Essays on Photographs, Lens Culture and Mass Media)、なかなか面白い概念だなと思ったことがある。日本にレンズ・カルチャーが到来したのは、桃山時代くらいだし、カメラ・オブスキュラの紹介以前に結構な歴史がある。そんななかでやはり重要なのは、覗き眼鏡だろう。遠近法を強調した絵(眼鏡絵)を、凸レンズを通してみるもので、西洋で言うVue d'optique。日本では、若き日の円山応挙のものが有名である。図は、鈴木春信の《六玉川:高野の玉川》に描かれている眼鏡絵を楽しむ少女。描かれているのは、イメージを一度鏡に反射させるタイプのものである。眼鏡絵については、岡泰正氏の『めがね絵新考―浮世絵師たちがのぞいた西洋』が詳しい。
レンズを使って、より遠近法が誇張されるとは言うのだが、実際に見たところ、そんなに大したもんではない。僕たちの目がさまざまな視覚的な刺激に慣れすぎたためであろうか。僕のかつての指導教授であるヘンリー・スミス師は、実際に視覚的な刺激があるというよりは、「覗く」という行為自体に面白さがあったのではないかと言っていた。なるほどね。以前、新潟の巻町というところに、現存している覗き絡繰--覗き眼鏡の巨大版で、語り付きの見世物--を見に行ったことがある(このことについても一度書かねば)。実演を見せて貰ったのだが、腰を屈めて、レンズを覗き込み、おどろおどろしい咄を聞くという体験は、独特の没入感があった。重要なのは、視覚が制限されるという点かな。