心理地理学と心理歴史学

シチュアシオニストの提唱した「心理地理学」という概念のことを読む度に、なんとなくある星の未来を何千年というタームで予測、計画できるような気がしてくる。ってそりゃハリ・セルダン心理歴史学)だ!
ドゥボールによれば、「心理地理学は、意識的に整備された環境かそうでないかにかかわらず、地理的環境が諸個人の情動的な行動様式に対して直接働きかけてくる、その正確な効果を研究する」(シチュアシオニスト・オンライン文庫「都市地理学批判序説」)そうで、なんのこっちゃ分からないが、これは分からないのが身上である。「1953年の夏ごろわれわれの何人かが没頭するようになった現象の全体を差し示すために、文字の読めないカビルが提案したもので、大した根拠はない言葉である」そうだから。これは、シチュアシオニスト特有の撹乱的概念であり、都市を「歩く/漂流する」ことによって、都市にアプローチしていくというものらしい。まだまだこの辺り勉強不足だけど、上からのヘゲモニー的な都市計画に対抗して、路上を歩くもののなし得る対抗的な戦術なのだろうと思う。以前、id:morohiro_s:20051210で引用したミシェル・ド・セルトーによる歩行者の可能性への期待と通ずるものがあるのだろう。「これらのエクリチュールの網の目は、作者も観衆もない物語〔イストワール〕、とぎれとぎれの軌跡の断片と、空間の変容からなる多種多様な物語をつくりなしてゆく」(『日常的実践のポイエティーク (ポリロゴス叢書)』)。あるいはグラムシの陣地戦/機動戦というのにも関係があるのだろうか。とにかく、統一的に場所を規定する「風景」に対抗するものとして、空間を撹乱する実践である「心理地理学」というのを想定できるのではないかと、最近考えはじめている。
で、一方、心理歴史学とは、いわずとしれたアイザック・アジモフ翁による虚構の学問。『ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)』。ハリ・セルダンという学者が考えついたもので、「人間精神を数学的に厳密な形で記述することで歴史を確率論的に記述する学問」である(ハリ・セルダン (Hari Seldon)を参照)。で、これに則って、銀河帝国が崩壊していくなか、人類の未来を救済するために「ファウンデーション」という都市=星国家をつくるというプロットである。こっちは心理地理学とは、どっちかというと逆で、いわば上からの管理なわけだけど、面白いのは、ちょっとした予測不可能な変数によって、心理歴史学に基づいた計画が危機に瀕するという点。なんかアジモフっぽいな。ロボット三原則を作っておきながら、その根幹に関わるような「ロボットによる殺人」という謎を提示する人だから。
まあ、どっちも「心理○○学」ということば自体の胡散臭さを利用してることには変わりない。「心理学」と「社会科学」が合わさるとなんか眉唾っぽい響きがあるんよね(心理学の人たち、ごめんなさい)。「心理歴史学」って言葉を思いついて、「こりゃ〜胡散臭い!」とほくそ笑んでるアジモフ翁の姿が目に浮かぶ。
こういう虚構の学問の系譜ってのも調べてみたら面白いかも知れないな。