世界遺産学部

ソフトバンクが出資して、「日本サイバー大学(仮称)」というのが出来るらしい安永航一郎とかのSF系のパロディ・マンガに出てきそうな名前。「(仮称)」も込みで)ソフトバンク社によるプレス・リリース「株式会社によるインターネットを活用した通信教育の四年制大学「日本サイバー大学」に係る特区申請について」を参照のこと。
例の特区制度における株式会社の大学教育進出の一種なんだろう。まあその辺りの問題とか、通信教育ビジネス、どこまでいくのとかいう話は措いといて、問題は設立される学部名である。「コンピュータ&ビジネス学部」をソフトバンクが設立するっていうのは、非常に納得が行く。ちょっとベストセラーのビジネス本みたいだけど。で、もう一つが「世界遺産学部」。う〜ん、どういう学部だろう。
旧来の研究領域で言えば、歴史学、考古学、美術史学、建築史学、地理学辺りが関わってくるんだろう。広く学際的にやるんだったら、人類学や民俗学も絡んでくるだろう(自然遺産に関しては理系の分野も関わってくるだろう)。理論的なアプローチはどうかな? 美学は微妙かも…… 最近は(あっ昔からか)、どう考えても低調な人文学関係の学部ができるってのは、いいことだと思うけど、でも「世界遺産学部」ってのはどうなんだろう。
まあ「文化遺産学部」だったら、一般的な名称だから分からなくはない。何を持って「文化遺産」とするのか、そうした制度的、規範的な問題も扱えば、なおいい。観光研究における「ヘリテッジ・トゥーリズム」研究や、日本美術史における「国宝」や「文化財」制度の批判的研究、あるいは写真史におけるミシオン・エリオグラフィック(19世紀のフランス政府による歴史的建造物を写真に記録するプロジェクト)の研究など、刺激的な問題が山積みであるし。
でも「世界遺産」ってユネスコという、いくら国際的とはいえ、一団体によって創られた(多分)ものなわけで、それを「学部」っていうものの名称に被せるのはどうかなと思った訳である。余りにもピンポイント過ぎないか? 学際性を目指すなら、もう少し間口を拡げておいた方がいいんじゃないかと思う。
まあ、嫌らしい言い方をすれば、「コンピュータ&ビジネス学部」がビジネス本購買層を狙うなら、こっちは歴史系、美術系の週刊ムック購買層を狙っていると云えるかも知れない。そうした層には、どうせなら「世界遺産」とどぉーんと謳った方が効果的という戦略か?
もう一つ、大学っていうのは、一方では教育機関だけど、もう一方では研究機関でもある訳だが、こういう大学って、その方面はどうなんだろう???
ちなみに、僕自身は、生涯教育/成人教育や通信教育というもののメリットはあると思っている。イギリスのオープン・ユニヴァーシティが好例だろう(あれだけのスタッフと教科書を見よ)。日本の放送大学にしてもなかなか面白い番組や教科書がある。京都造形芸術大学の通信教育課程には、非常勤として僕自身ある程度関わって、見ていて、その学生さんたちの熱心さを見ていると、こういう形の大学教育自体は必要だと思う。ただ、どういうやり方で行くか、これは難しいんじゃないかと思う。