今日の一曲"New Ghost”

アルバート・アイラー『ニュー・グラス』所収、インパルス!、1968年
僕にとって、フリー・ジャズといえば、オーネット・コールマンでもセシル・テイラーでもなく、アルバート・アイラーである。そのブヒョブヒョ音は、中上健二に「破壊せよ、とアイラーは言った」という文を書かせたりした。まさに破壊衝動のアイコン的な存在であり、そういう雰囲気に憧れていた餓鬼だった僕は、パンクとかオルタナティヴと並列して聴いていた。今から思うと汗顔・・・。
 ところで、僕が中学生から高校生の時の京都には、まだまだ「しあんくれーる」とか「大和屋」とか「ブルー・ノート」など色んなジャズ喫茶があった。ほかにハード・ロック専門の「治外法権」やパンク専門の「ミーン・マシーン」とかもあって、背伸びをしていた餓鬼であった僕は色々通い詰めて、半日過ごしたりしていた。ジャズ喫茶、あるいは音楽喫茶という文化は、日本に特有のものだそうで、マイルスとかは、来日するたびに楽しんでいたとか。とにかくコーヒー一杯で何時までも粘れ、特に「しあんくれーる」とかは、リクエスト曲に上限が無かったもんで、次々にリクエストを入れて聴いていたもんである。そんなにレコードを買う小遣いがある訳でもなく、ラジオでもフリー・ジャズやパンクなんかは一部の番組でしか聴けなかったから、非常に重宝した。勉強のつもりでいろいろ聴いていた。
 そんななかに「ザボ」という名前のフリー・ジャズインプロヴィゼーション専門のジャズ喫茶があった。よくあんな店が営業出来ていたなと思う。便所にはいると「造反有理」とか書いてあるような店。過ぎ去った時代の澱みたいなものがたまったような店であった。いつも難解なフリー・ミュージックが流れていて、半分ムリしながら、難しい顔をして聴いていた。ある日、その店にはいると、やけに格好いいファンクが流れている。おかしいな。でもどっかでこのサックスの音聞き覚えがあると思って、ジャケットを見たらアイラーだった。吃驚。ロックンロールあり、R&Bあり、ソウルあり。それ以来、レコード屋を探しまわっていたが、このアルバムは全然手に入らなかった。当時のコアなファンからは、「セル・アウト」すなわち「魂を商業主義に売った」と見なされていたから。CD時代になってようやく手に入れた。
 アイラーがニュー・オーリンズ・ジャズが好きだったとか、もともとR&Bのサックスを吹いていたというのは、レヴューなどで知っていたが、それが納得できる音である。コールマン・ホーキンズ→確かに代表曲「ゴースト」(『Spiritual Unity』所収)のテーマは、相当にブルージーである。その曲を自らカリプソ調にアレンジしたのが、この「ニュー・ゴースト」。イントロでは、アイラー自身が歌詞を付けて楽しそうに唄ってる。もちろんソロは、ブヒョブヒョだし、アウトしまくる。80年代には、オーネットもジェイムズ・”ブラッド”・ウルマーとかロナルド・シャノン・ジャクソンとかジャマラディーン・タクーマを引き連れて、ファンクとフリーを組み合わせていき、デファンクトとかも出てくる訳だが、その10年前にアイラーはやってしまっていたというお話。

この曲の試聴サンプルは、現時点では見つかっておりません。

ニュー・グラス

ニュー・グラス

  • アーティスト: アルバート・アイラー,コール・コブス,ビル・フォルウェル,プリティ・パーディ,パート・コリンズ,ジョー・ニューマン,セルダン・パウエル,バディ・ルーカス,ガーネット・ブラウン
  • 出版社/メーカー: MCAビクター
  • 発売日: 1998/01/21
  • メディア: CD
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