舞台と奥行き

よく劇画の元祖とか謂われている芳年であるが、注目したいのはその奥行きの浅さである。結構誇張した透視図法を使っているのだけれど、それが見事なほどに奥行きを感じさせない。要するに舞台の書き割りなのであろう(これは役者絵ではなく、武者絵に入るのだろうが)。まさに劇的。ドラマティックというよりシアトリカル。この間、ある方に、ディドロが絵画の構図を、演劇的なもの(前近代的)とタブロー的なもの(近代的)に分類したことを教えて貰ったが、これぞまさに演劇的な絵であるのだろう。
しかし、凄い構図だ。三枚続きの右左に人物を振り分けて、真ん中にはこうこうと光る月のみ(真ん中だけ手に入れたら何の絵か全く分からないだろう)。背景の東山の二峰もそれぞれ弁慶と牛若に対応している。欄干の遠近が、牛若の飛翔を支えているかのようである。むちゃくちゃ計算されているなぁ。