日本写真史?

The History of Japanese Photography (Museum of Fine Arts, Houston)』の書評を書いている。一昨年にアメリカで行われた大展覧会の図録で非常に立派なもの。図版の印刷は綺麗だし、資料編は充実しているし(年表/写真家のプロフィール+参考文献/重要な写真クラブや協会の紹介/主要な写真雑誌の紹介←表紙のカラー写真付き/英語での日本写真史に関する書誌情報)、ハードカヴァーでこのヴォリュームなのに安いし(日本で出版したらウン万円はするだろう)、申し分のない本である。ある写真家は、「今後10年のキャノンになるだろうね」と語っていた。
ただ、非常に良い本にもかかわらず、何となく違和感もあった。何となく「日本」「写真」「歴史」というそれぞれに対する問題意識、すなわちヒストリオグラフィに関する問題が棚上げされているような気がしていたのである。で、書評を書くために、これまでの『日本写真史』記述をいろいろと繰っていた。この本以前の重要な通史本である『日本写真史1840-1945』(平凡社、1971年、絶版)を読み返していて驚いた。序文を書いているのは、多木浩二なのだが、「写真」、「歴史」に関する問題意識、さらにそれでも取り敢えず「通史」を編纂しなければいけない苦悩を濃厚に打ち出している。参った。流石。ちなみに1971年といえば、『プロヴォーク』休止直後である。参ったな。