北斎のカメラ・オブスキュラ

morohiro_s2005-09-25

絵本『富嶽百景』より《ふし穴のふじ》。『富嶽三十六景』の成功を承けて出板された絵本で、一枚摺でない分、この絵のようにウィットが効いたものも多い。これは、雨戸の節穴を通じた光が障子に写り、外の富士を逆さまに投影するというもので、当然、カメラ・オブスキュラの原理である。その当時、すでにカメラ・オブスキュラは、輸入され、「写真鏡」という名で知られていた。大槻玄沢の『蘭学弁説』(1788)には次のようにある。

写真鏡・・・問ていはく、箱の内に硝子の鏡を仕かけ、山水人物をうつし画ける器、此方にて写真鏡と呼べるものあり。元と蛮製のよし、何といふものにや。 答て曰、これは「どんくる、かあむる」といふ器なり。此方好事家も往々擬製するものあり。甚だ工夫したる器なり。実に写真鏡の名、所を得たりといふべし。黄履荘が臨画鏡も此ものなるべし。

「写真」という言葉が、日本においてどのように使われてきたかについては、大昔に写真研究会で発表した「眞ヲ寫ス--フォトグラフィと写真のあいだに」(→http://www.think-photo.net/archive/research/satow/utsusu.html)を参照されたい。
このイメージで注目したいのは、富士山が二重写しになっていること。これは節穴が大きいために焦点が合いきらず、像がぼやけている様子を示しているのではないかと思う。