ジューシィ・フルーツ

アマゾンに随分前に頼んだジューシィ・フルーツのシングル集『シングルス』が漸く届いた。テクノ・ポップ全盛期と言われていたが、実際にチャート高位に上り詰めたのはこのバンドだけだったと思う。あっけらかんとしたポップでありながら、近田春夫のプロデュースで、バンド名をブライアン・デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス [DVD]』から取るというマニアックさを押し出した路線は、おにゃん子クラブや「なんてったってアイドル」のようなメタ・アイドルの先駆けとして記しづけられると思う。シニシズムを売りにすると言ったらいいのか。80年代だなぁ。
とはいえ、そういった戦略だけのバンドではない。デビュー曲の「ジェニーはご機嫌ななめ」をはじめとして、今聴いても良い曲が多い。50sポップスのパスティーシュである「恋はベンチシート」とか(ちなみに近田はこの後、自分の曲をパロディにするかたちで「恋のぼんちシート」を作る*1)。
僕が昔々、ハードコア・レゲエというバンドにいたとき、アルバムのゲストでイリアさんを招いてレコーディングをしたことがあった。リーダーの工藤晴康さんの幼馴染みだったというつながりだったと思う。で、ザ・ピーナッツの「ふりむかないで」を録った訳だが、いわば子供の頃のアイドルに会った訳で、緊張してしどろもどろに挨拶したことを思い出す。
今回買ったのは、久しぶりに「夢見るシェルター人形」を聴きたくなったから。原曲はセルジュ・ゲーンズブールによるもので、フランス・ギャルが歌った「夢見るシャンソン人形(‎Connecting to Apple Music.*2。その名曲を、ジューシィ・フルーツは、ポスト核戦争の設定で歌う。シェルターに一人生き残り、コンピュータだけを相手にしている少女--外は黒い雨--という、これも80年代SF的な発想である。「星よりきれいな核ミサイル/はじけて街中が光になったの」。衝撃的で、一度聴いたら忘れられない歌詞である。

私は夢見るシェルター人形/1日地下室でためいきつくだけ/約束のばしてまたあめ降り/こんなにあの人を思っているのに
あれからママはどこかに行ったわ/あれからパパも帰ってこないわ
星よりきれいな核ミサイル/はじけて街中が光になったの/授業がないのはうれしいけど/ひとりじゃ愛なんて習えもしないわ
あれから夜はどこかに行ったわ/あれから朝も帰ってこないわ
友達がわりのコンピューター/ほんとの太陽の真下が好きなの/私は夢見るシェルター人形/ふれたらとけそうな危険な雨でも/このままあの人の胸まで走って/二人の物語つづけてみたいわ

ちなみにiTMSでアイドル時代の小林麻美によるヴァージョン(http://phobos.apple.com/WebObjects/MZStore.woa/wa/viewAlbum?playlistId=74578898&s=143462&i=74578878)を発見して、思わず買ってしまった。そういえば「人形もの」といえば、伊藤つかさの「少女人形」も名曲だと思う。CD持っている(恥)。

*1:エンタの歌道』で聞ける。ちなみにこれはなかなか優れたコンピ。最近、カンニングがカヴァーしたらしい「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」の格好良さ。故岡八郎の「目は人間のマナコなり」も50sポップス風でいい。また上田正樹+有山淳司の「とったらあかん」を桂三枝がカヴァーした「三枝のムラムラ日記」などというレアな曲も!

*2:このタイトル「Poupee de cire, poupee de son」って直訳したら「蝋人形、籾殻詰め人形」となる。蝋人形か・・・。セルジュの倒錯ぶりが伝わる