ジェリーさんとミックさん

ダイアナ・ブラウン&バリー・K・シャープというグループが80年代も終わろうとする頃、イギリスにいて、元祖グラウンド・ビートとも、アシッド・ジャズの先駆けとされていた。昔シングルを二枚持っていて、とにかく格好良かったんだけど、それが引っ越しなどで何処かにいってしまって、名前さえ忘れかけ(masangin君にメールで訊いたっけ)、名前は分かっても手に入らず、また忘れかけてたら、この間、fukayaさんに聴かせて貰った。感謝。
グラウンド・ビート(Ground Beat)とは、ベース・ドラムが特徴的な跳ねる打ち込みビートの上にレゲエっぽいベースが絡み、さらにピアノはハウス、ストリングスはフィリー・ソウル、そこにソウルフルな歌とラップがその上に乗る*1という、まさにハイブリッド(異種混淆的/雑種の怪物/鵺*2)そのものであった。具体的には、どういう音かは、代表的グループ、ソウルIIソウル”Back to Life:iTMSで試聴"を聴いて頂きたい。ヴィデオもあるよ("Back to Life"のPV)。
ゴー=ゴー(id:morohiro_s:20040917#p2)の影響とかも云われるこのビートについては、遠くカリブの諸音楽のクラーベ→ニュー・オーリンズという流れを想定できると昔考えていたが、そういう通時的な話はさておき、グラウンド・ビートの面白さとは、上記のように、アメリカで流行っていた音楽の要素を、パッチワークのように組み合わせたら、こんなに格好良い音が出来ましたというところにあったと考えている。ジャングル/ドラムン・ベースやトリップ・ホップなど、アメリカのものとは一線を画すダンス・シーンが盛り上がる切っ掛けであったと思う。
イギリスのダンス・シーンのことを考えるならモッド文化から出てきたノーザン・ソウル*3やジャマイカ移民によるサウンド・システムのことも語らないといけないけど、それはいずれ。
で、ソウルIIソウルに先行するといわれていたダイアナ・ブラウン&バリー・K・シャープだが、最近混迷しがちな僕の記憶によると、確か一枚目のシングルには、ジェリー・ダマーズ(ex.ザ・スペシャルズスペシャルAKA)、二枚目には、ミック・タルボット(トールボットかな? ex.マートン・パーカス、スタイル・カウンシル)が入っていたように思う。これってガリアーノかなんかと混同してるかな? どなたか情報を持っている向きがあれば、ご教示頂きたい。
で、何がいいたいかというと、90年代以降のイギリスのダンス・シーンを形づくる重要な結節点に、モッド文化(2トーンも含むモッド・リバイバル)のなかから出てきた才能ある二人の鍵盤楽器奏者が絡んでいたのだということである。これはなにを意味するのか。
モッド・ファッションにおけるブリコラージュ性については、ディック・ヘブディッジの『サブカルチャー―スタイルの意味するもの』において指摘されているが、50年代後半にはじまるモッド文化の特徴とは、アメリカ文化を恣意的に切り取り、コピペするというところにあった。音楽にしても、アメリカ生まれのモダン・ジャズ、リズム&ブルース、ジャマイカのスカ/ロック・ステディなどをレコード(機械的複製物)というかたちで輸入し、クラブという場で切り貼りするように受容するというところに面白さがある。そこで「真正なるもの」を問うことは全くナンセンスなことである。これ、観光芸術の問題(id:morohiro_s:20051110#p1参照)とも繋がる話。
僕が、イギリスの音楽--とくに60年代のビート・ミュージック、70年代のUKレゲエ、80年代のポストパンク(id:morohiro_s:20041024#p2参照)、90年代のダンス--に惹かれるのは、「オリジナル」や「ルーツ」から遠く離れた場所で、複製物を基にこちゃこちゃと工夫(ブリコラージュ)してたら何か変なものができてしまうという点にあるのではないかと、最近とみに考えるようになってきた。
で、ジェリー・ダマーズとミック・タルボット。最近どうしているんだろう。ジェリーは、余り音楽をせず、たまに地元(コヴェントリーかな)でDJをしていると聞いたことがある。どんな曲を流すのか聴いてみたいな。でも、音楽活動もして欲しいと思う。ポストパンクの金字塔『モア・スペシャルズ*4』を作った人だけに(世間では1stの方が評価が高いみたいだけど)。スペシャルAKAで背負った借金がとんでもないものだとは聞いたが。

More Specials

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ミックの方は、いろいろと活動しているみたい。スタイル・カウンシル時代の同僚、スティーヴ・ホワイトとオーシャン・カラー・シーンのベースともにザ・プレイヤーズというバンドを組んでいるようで、サイト(WordPress › Error)で聞ける”What's Your Problem"という曲、むちゃくちゃ格好良い! リズムは、ザ・ミーターズだね。早速アマゾンのカートへ。

CLEAR THE DECKS

CLEAR THE DECKS

あっ、上記の曲が入ってるのはこっちだった→From the Six Corners

*1:しかし音楽を記述するときに、「上」とか「下」とか「乗る」とかいう場所/空間的な隠喩を使うのは、何故なんだろう。研究を語るときに「領域」とか「場」とかの隠喩を何故使うかという問題とともに場所/空間論のテーマの一つかな。

*2:頭はサル、からだはタヌキ、手足はトラ、尾はヘビ、鳴き声はヌエという鳥の怪物。

*3:アメリカでは誰も聴かなくなったようなソウル・ミュージックを探し出してきてクラブで掛けるというもの。

*4:収録曲"I Can't Stand It"についてはid:morohiro_s:20041122#1、"Do Nothing"についてはid:morohiro_s:20040919#p2を参照