意味の四角形

今週の院の授業で、ロザリンド・クラウスの「展開された場における彫刻」(『反美学―ポストモダンの諸相』)を読むと院生たちに約束したので、読み返している。これまでは、例のクライン群から導き出した図式--風景、建築、、非=風景、非=風景からなる四角形--を、ふ〜んという感じで、構造主義なんだろうなと分かった振りをして進んでいたが、教えるとなればそうもいかず、しっかりと理解しようと、まずはグーグルで「クライン群」を引っかけてみた(日本数学会幾何学分科会(幾何学賞・受賞者の業績・納谷信氏)。・・・何のことか皆目分からん。数学もっと勉強しとけばよかった。数学から逃げて私学専願だった僕にとっては、なんか呪文みたい(といいながら、僕もこの日録でさんざん専門分野のジャーゴンは使っているんだけど)。
確かにピアジェの群(心理学)というのも、あるいはJ・クリフォード(「芸術と文化の収集について」『文化の窮状―二十世紀の民族誌、文学、芸術 (叢書・文化研究)』)も挙げているグレマス(言語学)の「意味の四角形 semiotic rectangle」(これも分かった振りでスルーしていた)というのも、クライン群と基本的には同じものらしい。そういえばこの図、構造主義人類学の本とか論文とかによく出てくるな(バタイユをやっている知り合いの院生のブログを見てたら、彼も四角形に行き当たっているみたい→id:shirime:20051127)。
で、クラウスの脚注に挙げられているマルク・バルビュの「数学における《構造》という言葉の意味について」(マイケル・レイン編『構造主義』)を読んでもしっくり入ってこない。次はグレマス(『意味について (叢書 記号学的実践)』)かと思っていたら、最近別の文脈(観光と商品の問題)でブックマークしていた論文に、グレマスの四角形の解説が、非常にコンパクトにまとめられているのに気づいた。

著者の池田氏は、阪大と熊本大で教鞭を執る人類学者(http://www.let.kumamoto-u.ac.jp/cs/cu/ikeda-j.htm)。医療人類学が専門だが、観光人類学やカルチュラル・スタディーズにも造詣が深い。そういえばこの方の頁に、S・ホールの「文化の回路」についてまとめていたときなど、いろいろな時に出会っている。勉強になる。でも、分かった気にならず、グレマスも読んどかなきゃ。教えるってことは勉強することだと再認識。
(追記)で、整理しているんだけど、どうもクライン群→クラウスの図式とグレマスの四角形→クリフォードの図式って並び方が違う。

  1. クライン群は、[x]の右に [-x]が、その下に[1/x]と[-1/x]が左から右に並んでいる。
  2. ところが、グレマスの図式では、[S1]の右に反対の意味を持つ [S2]が、その下に[S2ではないもの]と[S1ではないもの]が左から右に並んでいる(図および説明は、前掲「http://www.let.kumamoto-u.ac.jp/cs/cu/000522ch.html」を参照)。
    • で、クリフォードの図式では、同じように、[芸術]の右に [文化]が、その下に[非文化]と[非芸術]が左から右に並んでいる。

要するに、1の系統の図式と2の系統の図式では、下の行の項目が入れ替わっているのだ(分かりにくくって御免なさい。TeXを知ってれば楽々この図を書けるんだろうが)。これは、グレマスがクラインの図式をいじったのか? 数学と言語学の違いか? 見かけが違うだけで同じことを言っているのか? どういうことだろう。調べてみないと。やっぱりグレマス読まないと駄目みたい。
(さらに追記)と、考えたり、読んだり、調べたりしてたら、もう一つ見つけてしまった。浜本満氏の「死を投げ捨てる方法」という論文(田辺繁治編 『人類学的認識の冒険―イデオロギーとプラクテイス』)の草稿版。ここで挙げられたクラインの図式は、

  • [x]の右に [1/x]が、その下に[-1/x]と[-x]が左から右に並んでいる。

となる。う〜ん。これだとグレマスに繋がるなぁ。