ブルーズの発見

「ブルース」を「ブルーズ」、「アシモフ」を「アジモフ」と書くのは、「コーヒー」を「コォフィ」と書くみたいなもんで、やらしいという話もあるが・・・。まぁ、ええか。


昨日の「ブルーズ」噺に少し補足を。上手くまとめられそうにないので断片的に。

  • この間、「民謡」の成立について調べている学生と喋っていてふと思いついたのが、民謡の成立過程における複製技術の関わりについてである。バルトークが世紀転換期に行ったハンガリー民族音楽の採集みたいなものが行われていたのだろうか。録音による採集→記譜による分析という過程は、多分行われていたはずである。この辺りは、その彼に調べておいて欲しいものだが(ところで、昨日、鶴見俊輔限界芸術論 (ちくま学芸文庫)』を読み直していたら、「民謡」と柳田国男についての言及があった。すっかり忘れていた。以前、民 - 蒼猴軒日録で書いた「民」のトピックとも重なる)。
  • で、柳田はさておき、ブルーズっていうのも、まずは「民folk」のもの、「伝承的traditional」なものとして「発見」されたということを忘れてはならない。ロバート・ジョンソンの『キング・オブ・ザ・デルタ・ブルース・シンガーズ VOL.2(紙ジャケット仕様)』の裏ジャケに描かれている、顎に手をやり静かにジョンソンの歌を録音=採集している白人男性の姿を思い出そう。この時点で、ブルーズとは、まさに集中的に「聴き」、そして分析される対象となっている。この辺りについては、湯川新『ブルース―複製時代のフォークロア (教養選書)』も参照。
  • もちろん、数多のブルーズ史が語るように、ブルーズはその後、産業革命の結果(と奴隷解放も)、アフリカ系アメリカ人ミシシッピ川を北上することにともなって北上する。ジャズと出会い、さまざまな楽器と出逢うことによって、リズムが強化され、ジャンプ・ブルーズが生まれ、さらに電気化されたシカゴ・ブルーズが、そしてリズム&ブルーズ(そしてロックン・ロール)が北部の工業地帯で生まれる。
  • この辺りの参考文献をいくつか。昔はこれくらいだった。今はむちゃくちゃ沢山出ているみたい。
  • で、二度目の「発見」が行われるのが60年代のイギリスである。ギャズのパパ、ジョン・メイオールやアレクシス・コナー、そしてその周りに集まっていたマニアックな若者たち--のちにローリング・ストーンズヤードバーズフリートウッド・マックなどを結成する--がブルーズの再発見を行うのである。ここら辺については、「ブルーズ・ムーヴィ・プロジェクト」のなかの映画『レッド、ホワイト & ブルース [DVD]』に詳しい。トラッド・ジャズとかスキッフルのブームとの兼ね合いも含めて。
  • ストーンズ、ゼム、アニマルズ、スペンサー・デイヴィス・グループなどは、どっちかっていうと、リズム主体のブルーズへのアプローチを行っていたと思う。でもヤードバーズ出身の三人のギタリスト(言うまでもないがクラプトン、ベック、ペイジ)の人気によって、ブルーズ=泣きのギター=長いソロという定式が一般化する(→ジョニー・ウィンターデュアン・オールマンスティーヴィー・レイ・ヴォーンなどのギター・ヒーローたち)。勿論、ブルーズがリズムかメロディかという本質論をするつもりはここではない。むしろ、ブルーズのどのような要素が、歴史上のさまざまなモーメントにおいて、発見され、誇張されるかというところに興味がある。もう少し言えば、「ブルーズ」が如何に表象され、如何に意味を生成してきたかということ。
  • 70年代の京都を中心とするブルーズ・リヴァイヴァル--憂歌団、ウェストロード、ブレイクダウンなど--による発見も興味深い(「関西性」の言説とも関わるか?)。
  • それほど、大きいムーヴメントにはならなかったけど、もう一回、重要な発見は70年代中盤のイギリスで行われる。パブ・ロックの一部--ドクター・フィールグッド、ビショップス、ナイン・ビロウ・ゼロなど--におけるリズム重視のブルーズである。このムーヴメントは、そのままパンクに続く訳だけど、いわゆるブルーズ色は喪われていく。
  • で、それが飛び火したのが、いきなり博多だったのが面白い。特にサンハウス(→ロケッツ)、そしてルースターズマディ・ウォーターズの「I Just Want to Make Love to You」がストーンズを経て、「恋をしようよ」(『THE ROOSTERS(紙)』)というむちゃくちゃ格好良いパンク・ブルーズになってしまう。
  • で、そういうのを高校生の時に聞いていた或る人が上京し、ワセダでブリティッシュ・ビート研というのを作って、そこに僕も入って(コメント欄の常連のfukayaさんやmo-tane君[二人とも高田馬場ミーターズこと、元クール・スプーン]やJeff君も、あとTheピーズの安孫子さんとかもいた)、妙にマニアックにブルーズを「発見」していくというオチ。直接の面識はないが、最近えらい格好良いバンド、スクービー・ドゥーもそのサークルの出身だと聞いて、ちょっと感慨深かった。