PEの曲タイトル

ある世代の、ある特定の音楽的な趣味の傾向を持つ人たちにとって、パブリック・エネミー(PE)の登場って衝撃的だったと思う。一枚目(Yo Bum Rush the Show)の段階では、ニュー・スクール・ヒップ・ホップの新世代が出てきた、くらいの扱いだったと思うけど、二枚目(It Takes a Nation of Millions)で火がつき、で映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』と絡んで、三枚目(Fear of a Black Planet)で頂点を迎えるという(この辺り、全部iTMSにあり→Public Enemy
とにかくキャラが立ってた。まじめで大声のチャックD。トリックスターP-Funkにも通じるコミカル/シニカルな出方のフレーヴァ・フラヴ。この二人でボケとツッコミの名コンビな上に、でかくて無言のロボットみたいなターミネーターX。ちょっとどころでなくヤバイ軍隊(S1W=第一世界防衛軍)を率いるプロフェッサー・グリフユダヤ人差別発言など流石にやりすぎで後に辞めた)。それに加えて、ノイズたっぷりのトラック。マルカムX〜ブラック・パンサーの言説を再生したメッセージなど、目を惹く点だらけだった。
アメリカではどうだったかはよくわからないけど、日本で起きたことは、この辺りのさまざまな要素が原因か、パンク/オルタナティヴ系の音楽ファンを一気に取り込んだということであった。ギャング・オヴ・フォーとか、ポップ・グループとか、デッド・ケネディーズとかを聞き慣れた耳には、非常に座りがいい音だった。で、その前からあった「ヒップ・ホップってパンクだ」という言説を完成させたのだと思う。「ヒップ・ホップに興味はないけど、PEだけは聴く」っていうロック・ファンも結構いた。
で、注目したいのは、PEのタイトル付けの巧さ。有名な曲名や映画の題などを巧く流用しながら、暴力的・反抗的・政治的な意味を付与していく。タイトルまでもがブレーク・ビーツになっている。

  • "Night of the Living Basehead"←映画Night of the Living Dead(『ゾンビ』)=Baseheadは、クラック依存症のこと。
  • "Rebel without a Pause"←映画Rebel without a Cause(『理由なき反抗』)=「停止なき反抗」。
  • "Party for Your Right to Fight"←ビースティ・ボーイズの"Fight for Your Right"=もとは「パーティを開く権利のために戦え」という既にアイロニカルなものだったのを、もう一回捻ったもの。
  • "Caught, Can We Get a Witness"←マーヴィン・ゲイの"Can I Get a Witness"だろう。「〔誤認〕逮捕された! 目撃者は現れるのか」みたいな。
  • "Welcome to Terrordome"←フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの"Welcome to the Pleasure Dome"

まだまだあると思う。Fear of a Black Planetも、SFの引用だろうし(あ! アフロ・フューチャリズムだ)。


ちなみに、ジョージ・A・ロメロの"Night of the Living Dead"は、原題自体のインパクトの強さや、カルト映画としての評価から、いろんなパロディーが作られているが、デッド・ケネディーズも引用して、"Night of the Living Rednecks"(Give Me Convenience Or Give Me Death)って曲を作っている。デッド・ケネディーズのシニカルでプロヴォカティヴなタイトルを付ける言語感覚とPEのそれって結構共通点がある。グループ名自体が両者とも強烈だし。


一度、PEとアンスラックスのライヴを見たことがある。確か、両方別々にやった後に最後に一緒に"Bring the Noize"をやったんだと思う。曲が始まった途端、白人も黒人も(またこいつらがでかいんだ)一気にヒート・アップして、ポゴというかスラム・ダンス状態に。巻き込まれてしまって、回転しながら人の波に飲み込まれていって、ちょっと生命の危険さえ感じた。