『世界の書記システム』
講義でパースによる記号の三分類の話をしたら、学生からの質問で、「漢字ってアイコンなんじゃないですか」というのがあった。その質問には、「もともとは確かにアイコン的な要素もあったけど、実際はシンボル的記号として機能している」と答えるつもり(第6週 - 佐藤守弘の講義情報 vol. 2)なんだけど、そういえば、漢字が「表意文字」だというのは、一種の神話だって話があったと思って、昔、ヘンリー・スミス先生のクラス(THE HISTORY OF EAST ASIAN WRITING)で使った教科書を引っ張りだす。このクラスは、いきなりデリダの『グラマトロジーについて 上』がアサインされるなど、タフなクラスだったけど、面白かったなぁ。僕は、確か葦手絵や文字絵におけるテクストとイメージの問題についてペーパーを書いたと思う。
- ちなみに上記のクラスのコーディネートをしていたのは、今はコロンビア大で日本文学を講じているデイヴィッド・ルーリーさん(David Lurie Profile)だった。確か当時は院生で、日本語における「書記=エクリチュール」に注目して、万葉仮名の研究をしていたと思う。で、卒論は啄木の『ローマ字日記』だったとか。面白いところに目を付けるなぁと思ってたら、以前発表しているのを聴いたら、奈良時代の木簡における漢文の表記(当時の中国語が日本でどのように読まれていたのか)についての問題を扱っていた(Guide to Garcinia Cambogia that work - Aasianst : Aasianst)。さすが、一貫している。
上記の教科書も、久しぶりに繰ってみたら面白かったので、ついでに紹介。
Writing Systems of the World (The Language Library)
- 作者: Florian Coulmas
- 出版社/メーカー: Wiley-Blackwell
- 発売日: 1991/01/15
- メディア: ペーパーバック
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フロリアン・クルマス『世界の書記システム』
- 第1部:理論的なパースペクティヴ
- そもそも書記とは何か?
- アイコンからシンボルへ:一般的な進化の動向
- 発話の単位と書記の単位
- 第2部:書記システム
- 第3部:実践的な問題
- 文字から音へ:書記言語を解読する
- 音から文字へ:アルファベットを創る
- 書記改革:条件と含意
- 第4部:結論
- 言語学にとって書記とは何か?
上記の「漢字は表意文字か?」という問題に対しては、クルマスは、「表意文字(ideogram)」でも、「表語文字(logogram)」でも、「音節文字(syllabogram)」でもあり得るが、その全てを満たしているわけではないとし、「形態素=音節書記システム(morpheme-syllable writing system)」というのが、一番適当なのではないかとしている。