「奈良」の表象
上記の仕事に絡んで、「奈良」の表象について調べている。近代以降、京都とセットで「古都」として表象される奈良であるが、どうも「京都性」と「奈良性」の間には温度差があるように感じる。どういう差かというと、京都が徹底的に「ベタ」であるのに対して、奈良の方はなんか「高尚」な感じがするのである(勿論、一方で大仏と鹿というベタベタな奈良もあるんだけど)。「奈良」といえば、和辻哲郎、會津八一、さらに最近では白州正子などなど、なんとなくインテリっぽく、高踏的な言説が思い浮かぶのに対し、京都表象は、量的には奈良とは比べものにならないほどある筈なのに、どうも「ベタ」な気がする。京都写真もそう。奈良には土門拳も入江泰吉もいるけど、京都写真は???と言った時に思い浮かぶ写真家がないとか……
この差は奈辺にあるのか、なんてことを考えながら調べているのである。とりあえず會津八一と写真師、小川晴暘を中心としたサロンの話が面白そう。あと亀井勝一郎や保田輿重郎といった「日本浪漫派」の「滅び行くもの」としての奈良表象の問題もなかなか興味深い。
とりあえず読んでいる参考資料など
- 高木博志『近代天皇制と古都』
- 浅田隆、和田博文編『古代の幻―日本近代文学の“奈良” (SEKAISHISO SEMINAR)』
- 岡塚章子「写された国宝――日本における文化財写真の系譜」東京都写真美術館編『写された国宝』展図録、2000年
- 熊谷昭宏「想像の大和路を行く旅人たち――堀辰雄の「大和路」を中心に据えて」『同志社国文学』51号(2000年)
- 遠藤英樹「観光という『イメージの織物』――奈良を事例とした考察」須藤広、遠藤英樹編『観光社会学』
- 『入江泰吉の奈良 (とんぼの本)』
- 和辻哲郎『古寺巡礼 (岩波文庫)』
- 亀井勝一郎『大和古寺風物誌 (新潮文庫)』
巡礼と観光 - 蒼猴軒日録でアップした年表の拡大版(まだまだ工事中)
- 1868 廃仏毀釈
- 1871 古器旧物保存方
- 1872 壬申調査、正倉院開扉(蜷川式胤、横山松三郎)
- 1875 大仏殿回廊で第1回奈良博覧会
- 1879 『奈良独案内』発刊
- 1880 奈良公園開設
- 1884 フェノロサ、岡倉などによる調査
- 1888 近畿宝物調査(小川一真)
- 1889 橿原神宮創建/『國華』創刊
- 1892 大阪鉄道、大阪〜奈良間全線開通
- 1893 工藤利三郎、猿沢池畔に写真館工藤精華苑を開業
- 1895 帝国奈良博物館開館
- 1896 奈良〜木津(京都)間に鉄道敷設
- 1908 『国宝絵葉書』発売
- 1909 奈良ホテル開業
- 1910 旅館江戸三開業
- 1910 平城遷都千二百年記念祭/會津八一、はじめて奈良来訪
- 1914 大阪電気軌道(現・近鉄)、上本町〜奈良間開通
- 1915 この頃、博物館前に旅館日吉館開業
- 1916 「神武二五〇〇年祭」で大正天皇行幸
- 1919 和辻哲郎『古寺巡礼』初版
- 1920 『佛教美術』誌創刊(會津八一、小川晴暘)
- 1922 小川晴暘、博物館前に写真館飛鳥園を開業
- 1924 『古寺巡礼』改版、写真は小川晴暘
- 1929 奈良市、観光課を設置/大阪電気軌道、生駒山上遊園地開設
- 1932 奈良帝室博物館で、正倉院展が年次化
- 1940 「紀元二六〇〇年」奉祝事業→正倉院御物の展覧@東京帝室博
- 1943 亀井勝一郎『大和古寺風物誌 (新潮文庫)』
- 1960 『古寺巡礼』の挿画写真が入江泰吉に
- 1963 土門拳『古寺巡礼』(写真集)