オリムピック

北村薫の「ベッキーさん」シリーズの最終巻『鷺と雪』を読んでいたら、写真の話が出てきて、「オリムピック」という安価なカメラが登場した。ライカが780円(「家が一軒買える」といわれていたらしい)もしたのに対し、国産で10円以下で買えたという。どういうカメラだろうと調べてみたら、理化学興業(現:リコー)が出していたコンパクト・カメラであった。最近、リコーのカメラを手に入れただけに、ちょっと興味を持った。

話は、1935年に設定されているので、B型が出ている時期だけど、B型は15円したらしい。話の中では繰り返し「10円以下」と出てくるから、9円50銭のA型だろう。

日本初のプラスティック・ボディーのカメラで、ポピュラーなカメラとして人気だったらしい。当時流行だったベスト・フィルムをハーフ・サイズで撮る機種で、同じフィルムを使った小西六(現:コニカミノルタのパーレット(こっちは聞いたことがある。小説の主人公は、兄から借りたこのカメラを使っている)と人気を二分していたとか。

パーレットが、「ベス単」ことヴェスト・ポケット・コダックそっくりなのに対し、オリムピックの方は、ライカや現代のコンパクト・カメラに近い形をしている。RUBERG & RENNER 社のBaby Rubyがモデルらしい。
ところで作者は「オリムピック」と書いているが、http://www.camerapedia.org/wiki?title=Olympic&redirect=no&printable=yes&printable=yesに載っている当時の広告を見ると「オリンピック」となっている。雰囲気を出すために、ちょっと勇み足か。


鷺と雪

鷺と雪

シャーロキアンじゃないんだから、こんなにムキに調べることもないんだが、調べ始めると面白くって……。でも、戦前期のアマチュア芸術写真家未満の写真実践っていうのも調べてみたら面白いかもしれない。どういう問題がたてられるかは分からないが。


そういや、シリーズの他の巻で、「芸術写真」「芸術映画」というのが、すなわちヌード写真/映画のことを表すというくだりもあった。これも面白いね。
というわけで、「ベッキーさん」シリーズを読了したわけだが、さすがに巧緻で、面白かった。時代のコンテクストを巧く使っていて。
街の灯 (文春文庫)玻璃の天 (文春文庫)


「円紫師匠と私」シリーズも読み返そうかな。
空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)秋の花 (創元推理文庫)六の宮の姫君 (創元推理文庫)朝霧 (創元推理文庫)