「時の宙づり--生と死のあわいで」展
昨日、見てきたG・バッチェンがキュレートした「時の宙づり」展のついて短いレポート。
↓のカタログで紹介されているオランダ、ファン・ゴッホ美術館で行われた展覧会を基本的には継承している。ただし、バッチェンさん自身やチャールズ・シュワルツ氏のコレクション以外は、日本で借り出したものもあり、また違ったものになっている。

Forget Me Not: Photography and Remembrance
- 作者: Geoffrey Batchen
- 出版社/メーカー: Princeton Architectural Press
- 発売日: 2006/08/03
- メディア: ペーパーバック
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まずはダゲレオタイプが大量に見られることが特筆される。あれだけまとめてダゲレオタイプを日本で見ることってあまりできないから、それだけでも行く価値はある。さらに遺髪や蝋の造花と組み合わせた遺影写真や、彩色ティンタイプの数々、そしてなんといってもメキシコのフォロエクスラトゥーラ(写真彫刻)。とにかく「モノ」としての強度がハンパない。花などで飾り付けた遺影をさらに撮影した入れ子状態のキャビネ・カードを壁面にインスタレーションのように展示しているのも見物。
日本からは、桐箱入のアンブロタイプや遺影、さらに写真焼付の骨壷。ちなみに出品されている写真をもとに描かれた遺影掛軸は、ボクの所蔵品です。
後半のスナップショット群は、上記の本では扱われていなかったものだが、非常に面白い。撮影者の影が写り込んだアノニマスなスナップショット写真がセレクトされていて、それが同じ趣向の森山大道とリー・フリードランダーの作品によって挟み込まれている。撮影者の影が写真の内と外、被写体と観者を繋ぐ。
自分が少しだけ関わったから言うんじゃないけど、相当面白い展覧会です。誰でもとは言わないが、写真史の研究者、とくに19世紀の写真実践に興味を持つだったら、交通費かけても見に行く価値はあり。長くやっているから、ボクは旅行気分で夏休みにでも再訪するつもり。
ちなみに下記の図録は、一般書店でも売るみたい。まだアマゾンとかには出ていないみたいだけど。書誌情報は以下。
- ジェフリー・バッチェン『時の宙づり--生・写真・死」IZU PHOTO MUSEUM、2010年
- 書斎論文は、バッチェン「生と死」のほかに甲斐義明「スナップ写真の影」および小原真史「生と死・公と私・東洋と西洋のあわいで」。
も一つ、ミュージアムの本屋のセレクションは、相当素晴らしいことを付け加えておこう。
時の宙づり--生と死のあわいで Suspending Time: Life--Photography--Death (IZU PHOTO MUSEUM|展覧会)
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- 会期:2010年4月3日(土)〜8月20日(金)
- 開館時間:10:00-18:00
- 休館日:毎週水曜日(祝日の場合は翌日休)
- 展覧会場:IZU PHOTO MUSEUM
- 「時の宙づり―生と死のあわいで」は、写真の歴史の中でしばしば見過ごされてきたような、日常的な写真にスポットライトを当てています。国際的に注目を集める写真史家、ジェフリー・バッチェン氏によって企画された本展は、そのような“忘れられた写真”の意義を考察する日本で初めての本格的な展覧会となります。無名の職人や家族の手によって作られたそれらの写真の多くは、調度品や装身具として日常的に触れられたり、家庭の中で亡き人を偲ぶよすがとなってきました。遺された写真にさまざまに手を加えることで、そこに特別なまなざしを注いできた人々の思いを垣間見ることができます。デジタル写真と異なる、モノとしての存在感を強く発する「ヴァナキュラー(ある土地に固有)写真」の魅力をご堪能下さい。
- 欧米のダゲレオタイプ(銀板写真)、写真付きアクセサリー、メキシコの写真彫刻、日本の湿板写真、アルバムのスナップ写真など日本初公開の計300点以上を展示予定。
- ジェフリー・バッチェン(Geoffrey Batchen)
- 写真史家。ニューヨーク市立大学教授。氏が企画した「Forget Me Not: Photography and Remembrance」展は2004年のファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)を皮切りに世界各地を巡回。編著に「Burning with Desire: The Conception of Photography」(The MIT Press, 1997)、「Each Wild Idea: Writing, Photography, History」(The MIT Press, 2001)、「William Henry Fox Talbot」(Phaidon, 2008)、「Photography Degree Zero: Reflections on Roland Barthes’s Camera Lucida」(The MIT Press, 2009)など他。代表作である「Burning with Desire」は、青弓社より2010年春『写真のアルケオロジー』(前川修/佐藤守弘/岩城覚久訳)として刊行予定。
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