〈パクリ〉シンポジウム

もう一度告知いたします。明後日です。是非御出ましください。
京都精華大学ポピュラーカルチャー研究会主催です。

第1回 ポピュラー・カルチャーシンポジウム

    • 模倣とは、古今東西、さまざまな文化的実践の根底にある行為であると言えよう。たとえば西洋や日本の絵画学習において、先行作品のコピーが基礎に置かれていたことや、陶磁器の制作における「うつし」の実践を思い浮かべればよい。とはいえそれは、何よりも独創性を重んじる近代的芸術概念と摩擦を引き起こすことが往々にしてある。さらに写真や録音などの複製技術の発達は、他者の文化的生産物を、ほぼそのままの形で、流用することを可能にした。それは一方では剽窃=パクリという概念によって罪として糾弾されながら、他方ではブリコラージュやパスティーシュといった対抗的文化戦術として評価されることもある。いったい私たちは、〈模倣〉や〈流用〉とどのようにつきあっていけばよいのだろうか。本パネルでは、ポピュラー文化における〈パクリ〉の諸相から、さらに法や経済の問題、あるいは日常的実践での模倣現象まで、幅広い視点から、この問題を討議していきたい。
    • 基調報告
      • 伊藤 公雄京都大学教授)「(メタ)複製技術時代の/とDIY文化」
        • 20世紀の複製技術時代は、ポピュラ―・カルチャーの創造と受容のあり方を大きく変化させた。特にメデイア・テクノロジーの発達は、自前(DIY)の個人的・集団的な文化創造の可能性を大きく広げることになった。本報告では、ベンヤミン中井正一などの古典的議論を再度振り返りつつ、60年代のDIY的文化運動の動向や、「審美的個人主義」の時代とも呼ばれる現代社会における、集団的な、かつ自前の文化創造の可能性について考えてみたい。
    • 報告/パネルディスカッション
      • 増田 聡大阪市立大学准教授)「パクリ─ポピュラー音楽の場合」
        • 「パクリ」とは、戦後の闇市から浮上した経済詐欺を示す語であったが、80年代後期のバブル期を境目に、文化的生産物の剽窃行為を意味する語へと変容していった。その背景には、文化を財物のメタファーで捉えようとする視線のはたらきがある。物理的な媒体を離れて容易に複製・変形される性質を持つ音楽は、この文化の財産化の論理としばしば摩擦をきたすだろう。本報告では、パクリと名指され騒ぎとなった音楽を数例取り上げ、その摩擦の諸相を検討する。
      • 山田 奨治国際日本文化研究センター准教授)「〈パクリ〉はミカエルの天秤を傾けるか?─罪の軽重をお金で考えてみる」
        • 最後の審判の日に、大天使ミカエルは天秤で死者の罪の軽重を量るという。〈パクリ〉という〈罪〉の重さを量る天秤は、ここ25年ほどのあいだにずいぶんと傾きやすいものに取り替えられたようだ。著作権侵害の罰金額は、84年には物価上昇を理由に引き上げられたが、その後は経済実態とは異なる理由で罰金額の引き上げがつづいている。いまや個人に対する罰金の上限額は84年以前の33倍、法人に対しては1000倍になっている。その歴史を振り返りながら、〈罪の経済学〉の裏に潜む思想や政治性を考えてみたい。
      • 杉本 バウエンス・ジェシカ京都精華大学准教授)「インターネット忍者の美学」
        • バガボンド』、『NARUTO』等の多くの海外ファンを魅了する武道系マンガ。読者は「忍者」や「侍」という象徴にあこがれ、自らその生き様を模倣しようとする。彼らの想像の中で膨らんでゆく、伝統的で純粋な日本男子像。そういったファンのインターネットコミュニティ内では、武道系の映画作品から陰謀説まで幅広いテーマについて熱く議論されている。彼らの独特な美学、ジェンダー感。理想の東洋・日本男子像に彼らは何を求めているのか。彼らが来日する際には、どんな期待を抱いて来るのか。また、それを自分のアイデンティティとしてどうやって結びつけているのか。それぞれの「男のロマン」を追求していく。そして、彼らファンのあこがれを逆手にとるような、皮肉に満ちあふれた批判的な作品(石田達也作『Sinfest』の「忍者劇場」をはじめとした数々のパロディ作品)についての考察も行う。
      • 細馬 宏通滋賀県立大学教授)「模倣する身体」
        • 日常会話では、模倣はごくありふれた現象である。模倣にあたって、模倣者はモデルのすべてを「コピペ」するのではなく、ある形質に注意を向け、限られた形質をなぞろうとする。模倣行為は、模倣者がモデルの何に注目し、何を見落としたかを、模倣者の身体を通して顕わにする。モデルの行動と模倣行動との間には緊密な時間関係が生じ、模倣行動は微調整される。本発表では、会話における模倣の観察を通じて、いわゆる「パクリ」問題で捨象されがちな模倣現象の諸相を指摘する。