morohiro_s2006-04-22

「とこ」ではなく、「ゆか」(僕もよく間違える)。鴨川の横に流れる小川に張り出した納涼床の建設が、寒い中もう始まっていた。数年前から、観光不況の中、連休の客を掴もうってんで、前倒ししたらしい。これは、なんか組合の規定かなんか(流石に条例ではないと思うが)で、一斉にはじめることになっているんで、抜け駆け禁止らしい。
京都在住の人間としては、下の河原を歩いた経験はあるものの、床自体に上がった経験はほとんどない。実際、上がってみると、チャージを取られるし、寒い時には寒いし、暑い時はやっぱり暑いし、正直、このご時世、エアコンが効いた普通の室内のほうがよっぽどいいんだけど、まあこれはこれで観光資源なんだろう。最近は料理屋だけではなく、喫茶店なども鴨川に面した店は、床を出すようになった。写真はスターバックス。昔からのものは木造だけど、これは本体が鉄筋か鉄骨だからか、鉄製の骨組みである。
昔の絵を見ると、今のように建物にへばりついているんじゃなくて、貴船みたいに、川の流れの中にどーんと床几がおいてあるだけである。有名なところでは、円山応挙の眼鏡絵にも描かれている(→•MuŠÛŽR‰ž‹“‚ƊዾŠGv
でも、長崎大学図書館所蔵の横浜写真、《鴨川市場付近》(『玉村康三郎アルバム』)をみると、もうすでに店にくっついている。いつごろ変わったんだろうか。床を出す店の組合のサイトらしきもの(”[—Á°)があって、歴史が詳しく載っているけど、このようなスタイルの変化については、触れられていない。おそらくは店が多く建ち並ぶようになった江戸後期からなんだろうな。

メトニミーとシネクドキ

レトリックについて話す時、メタファー(隠喩)はとりあえずいいんだけど、隣接性に基づくメトニミー(換喩)と包摂関係に基づくシネクドキ(提喩)の違いについて、巧いこと説明できなくて困っていた。結構色んな本を見てもいろんな説が書いてあって困る。シネクドキとは、一部をもって全体を、あるいは全体をもって一部を表すもんだから、メトニミーの一種だって書いてあるヤーコブソンもそうであるよう)のもあるし、いや違うんだってのもあって。
まあ、普通は、メタファーvsメトニミーの話をしてたら良かったんだけど、最近、作品の「タイトル」とは何か、って話を講義でしていて、佐々木健一氏の『タイトルの魔力―作品・人名・商品のなまえ学 (中公新書)(この本は面白い!)を参考にして話をするんだけど、で、佐々木氏は、絵画に描かれているものをタイトルにする記述型のパターン(《四条河原遊楽図》とか《積み藁》とか、一番多いもの)は、メトニミーではなく、シネクドキだと言っている。なぜならば絵画に描かれた世界は、現実のフィジカルな世界ではないので、隣接関係は成り立たないからだという(上記p.206)。ちなみに、《ミロのヴィーナス》は、メトニミー型らしいが。
となると、メトニミーとシネクドキの区別を喋らないといけない。で、去年も今年(っていいうか昨日)も、記述型と隠喩型の違いさえ伝わればいいかと、その辺りはむにゃむにゃ言いながら流していたんだけど、瀬戸賢一氏の『メタファー思考 (講談社現代新書)』の「理論解説:メタファー早分かり」(203-06)っていうのが、すごくすっきりとメトニミーとメタファーの違いを解説している。


瀬戸氏によると、メタファー、メトニミー、シネクドキは認識の三角形を形づくるもので、やっぱりメトニミーとシネクドキは、別物として扱わなければいけないらしい。メタファーは似ている(有名な例では「白雪姫」)ってことでいい。メトニミー(「赤ずきんちゃん」)っていうのは、あくまでも現実世界の隣接関係--主人公の娘がいつもかぶっているもの--に基づくのに対し、シネクドキ(「人魚姫」)は、意味世界における包摂関係、すなわち類をもって種を表すものであると。なるほど、現実世界と意味世界の違いね。
以下の例が挙げられている。

  • 月見うどん(メタファー:卵黄と月は似ている)/きつねうどん(メトニミー:油揚げは狐の好物)/親子丼(シネクドキ:親子という類で、鶏と鶏卵という種を表す)
  • たい焼き(メタファー:鯛に似せたかたちをしている)/たこ焼き(メトニミー:蛸が実際に中に入っている)/焼き鳥(シネクドキ:鳥という類で、鶏を表す)

なるほど、これはよく分かる。


で、タイトルの話に戻ると、また疑問点が出てきた。確かに、「積み藁」は現実世界のものではなく、絵の中のものだけど、でも絵画の外の世界を参照している訳だから、シネクドキじゃなく、メトニミーでいいんじゃないの?という疑問(「赤ずきんちゃん」だって、お話のなかの世界だし)。で、この辺りが、メトニミーであるとして、じゃあシネクドキは?って考えると、たとえば《破墨山水図》などのように「技法+ジャンル名」の場合が、シネクドキなんじゃないかと(「山水図」は「山水を描いた絵」として考えるとメトニミーだけど、「山水図」というジャンル=類として考えると、シネクドキでいいかと思う)。その伝でいけば、工芸やデザインの「タイトル」っていうのもシネクドキが多いか(《青磁平皿》とか《アーム・チェアー》とか)。


あ〜、そろそろ出かけなきゃ。もう少しゆっくり考えよう。この辺りにお詳しい方、コメント頂ければ幸いです。