蒼猴軒日録:巴黎編

  • 6/8

関空にて重森三明さん(美術家)と、ソウルのインチョン空港にて今村創平さん(建築家)と合流し、パリへ(さらに美学研究者の安西信一さんを加えて、日本からは四人が参加)。コリアン・エア。ビビンパが嬉しい。午後7時くらいに着く。ホテルへ向かったら、僕と今村さんの部屋がないとのこと。焦る。しかし重森さんが連絡を取ってくれて、無事近くのホテルに投宿。皆でトルコ料理を食べに行く。
生まれてはじめてのパリ。歩きながら周囲があまりにも「巴黎」であるのに驚く。ブールヴァールはプラタナスだし、建物は5階建てでスカイラインは揃っているし、パサージュがあらゆるところにあるし、モニュメントは大きいのから小さいのまで至る所にあるし(多すぎ)・・・。

  • 6/9

時差ぼけで朝4:30起床。今村さんと朝食を採り、荷物を本来のホテルに移動した後、別行動。オルセー美術館へ。アングルの《泉》とか、マネの《草上の昼食》、《オランピア》とかは、「へぇ〜本物だ」という感じだったが、モネの《モントルギュイユ通り》には驚嘆。これを見ただけでも、オルセーに来た甲斐があったというものだ。ブック・ショップで大量に写真史に関する書籍・図録を購入。ドカ買いしたせいだろう。状態の悪い一冊を只にしてくれた。ルーヴル(今回はあきらめた)を横目で見つつ、オペラ・ガルニエの前を通って、パサージュ観光へ。暑い、暑すぎる。パサージュ・ジュフロワとパサージュ・デ・パノラマ。いい写真を扱っている骨董屋を見つけ、「またゆっくり来る」と約束する。
ホテルにいったん帰り、会場の下見、機材のチェックに行く。パリ=ラ=ヴィレット建築学校の会議室。招聘してくれた主催者のフィリップ・ニスさんと久々の邂逅。夜はフランス料理。鳩がおいしかった。
ホテルはレピュブリック広場の近くで足の便がよい。おそらく19世紀の建物。なかなか趣がある。フロント(オーナーの娘らしい)の対応は悪いけど・・・

  • 6/10

まだ時差ぼけ。9時からセミナー「近代のリミットにおけるピクチャレスク」が始まる。午後二番目の発表。「写真・観光・ピクチャレスク:19世紀後半の視覚文化における横浜写真」というタイトル。1時間以上話してしまった。少しスピーカーズ・ハイ。質問がたくさん出たので、内容は悪くなかったはず(と思う)。午後7時まで。強行軍。夜は発表者全員でフランス料理。缶詰ではないエスカルゴを食べる。美味。後で殻に詰める缶詰蝸牛とは違い、やっぱり栄螺みたいに殻の奥底に引っ込んでいた。

  • 6/11

セミナーの二日目。今日は発表がないので、気楽なもの。でも終わったのは、7時半。くたくた。この企画はまだ続くとのこと。楽しみである。打ち上げは、例によって(当たり前だが)フランス料理。気がつけば1時。

  • 6/12

唯一の完全オフ。今日一日しかない。寝不足だけれど目が覚めてしまったので、9時くらいにホテルを出る。でもどこも開いていないので、バスティーユ広場まで歩く。その途中にカメラ屋が沢山あり、掘り出し物があるらしいと、昨日、松田君(日本からの留学生)に聞いたので。まだ開いていなかったけれど、ウィンドウ越しにステレオスコープを発見。後で来ることにする。
バスティーユ広場からシテ島の方に向かうつもりが逆に歩いてしまい、結局地下鉄へ。ノートルダム大聖堂を横目に見つつ(こんなんばっかり)、目指すはパリ警視庁。なぜなら犯罪者写真の定式を作ったA・ベルティヨンの博物館があると聞いたから。でも行っても何もなさそう。門番の警官に聞いたら、ブールヴァール・サン・ジェルマンの方にあると、親切に教えてくれる。でも行ってもやっぱり何もない。訊き方が悪いのか、教え方が悪いのか。残念。気がつくとJ・ヌーヴェルの設計になるアラブ世界研究所の前にまで来ている。「ほう」とまたままた横目で見つつ、一路ヨーロッパ写真美術館。おしゃれな建物で、マグナムのマルク・リボーの展覧会。『ゴーギャンタヒチ・写真』という秀逸な図録と図録『1850年のローマ:カフェ・グレコの写真家サークル』、それにリュミエールの『シオタ駅への列車の到着』のフリップ・ブックを購入。
つづいて凱旋門の近くの国立写真センターへ。ロートシルト家の旧邸で、アルセーヌ・ルパンが忍び込みそうな豪奢な建物。でも展覧会は、セルフ・ポートレート/成り切り界では圧倒的な強度(キツさ)を誇るオルランの回顧展。ギャップが面白い。バック・パックが重くなってきたので書籍購入はあきらめる。
先日の骨董屋を再訪。ダゲレオタイプやティンタイプ、カルト・ド・ヴィジット、横浜写真が次々出てくる。コーヒーまで出てくる。どうしよう。あれも欲しい、これも欲しいと、テンパりかけているところに、「他に見たいものはあるか」と聞くので、「サミュエル・ボーンのインドの写真」と言ってみると、それも出てくる。やばい。きりがない。「この骨董屋に棲みたい」とか訳の分からないことを思いはじめたので、「今回はこれくらいで」という。呻吟したあげく、ティンタイプ2点(ダゲレオタイプのいいものはとてつもない値段なのでヤメ)、カルト・ド・ヴィジット3点、横浜写真2点(日本の相場より相当安い)を購入。散財。
散財ついでに、朝見たステレオスコープ*1を買いに行って、疲れ果てて午後4時にホテルにいったん帰る。ちょっと休んで、折角の機会なので遅くまで開いているポンピドー・センターに向かう。特別展はホアン・ミロとジョゼッペ・ペノーネ(良し)。そのあと常設。相当疲れていて、「ああ有名な作品ばかりやね」と半分ぼーっと見ていた。でもシュルレアリスムの展示がよかった。目が覚めた。アンドレ・ブルトンのコレクション(アフリカの木像や犬の剥製やシュルレアリスムの絵画や)を再構成して展示していた。しばしその場で楽しむ。思わず過去の図録『シュルレアリスム革命』まで重いのに買ってしまう。夜は一人で中華。疲労困憊。たぶんこの四日で一ヶ月分くらいは歩いたような気がする。

  • 6/13

パリを出立。日本へ。

*1:これが大失敗。帰国してわくわくしながらステレオ写真を入れると、像が大小の二重になっている。分解してよく見ると、右目用と左目用のレンズの厚さが全然違う。これでは見えるはずがない。あ〜あ。安い方にしとけばよかった。悔しい。形は完璧なのに・・・。でもレンズの確認という基礎的(かつ最重要)なことをしなかった僕が全面的に悪い。いや、いい勉強をした。そのうち双眼鏡のレンズを流用するなり、何とかして直そう。