Nobody Knows You

僕の好きなブルースに「Nobody Knows You When You're Down and Out」という曲がある。古い曲で、「昔は金持ちで羽振りがよかったので、色んな奴らが寄ってきたけれど、落ちぶれてしまったらだれも俺のことなんか鼻も引っかけない」という歌詞。

Once I lived the life time of a millionaire/ Spent all my money, didn't have a care/ Took all my friends for a mighty good time/ Bought bootleg liquor, champagne and wine
Then I began to fall so low/ Lost all my friends, had nowhere to go/ If I get my hands on a dollar again/ I'm gonna squeeze it, 'til the old eagle grins
Nobody knows you when you're down and out/ In your pocket, not one penny/ And your friends, you don't have any
When you come back on your feet again/ Everybody wants to be your long-lost friend/ I say it straight without any doubt/ Nobody knows you when you're down and out

ブルースが嘆き節とするならば、これこそブルースという曲である(ちなみに進行は12小節の典型的なのではなく、循環進行)。ベッシー・スミスからはじまり、サム・クックオーティス・レディング、クラプトンに至るまで、色んな人々がカヴァーしている。僕としては、ニーナ・シモンのヴァージョンが大好きである。
で、僕の大好きな二つの日本のグループがカヴァーしている。その歌詞の日本語訳がいい。
まずは鮎川誠のいたサンハウス。『ハウス・レコーデッド』という未発表曲を集めたコンピレーションに入っている。タイトルの訳は《落ち目の歌》。三連系のリズムで唄う。ヴォーカルのキクの声が情念たっぷりに「落ちぶれ果てた俺には、誰も知らんぷり。誰も相手にしてくれない」と絶叫する。

昔、俺は腐るほど金があり、酒と女にうつつを抜かす毎日だった/友達はみんなおべっかを使い、ちやほやされて俺はいい気になっていた
そんな俺だから、ケチがつくのも当たり前/ある日俺はすっかりスッカラカンになってしまった
友達はみんな行ってしまい、恋人にも去られ/行く当てもなく俺は、一体どうしていいのやら
落ちぶれ果てた俺には、誰も知らんぷり/そんな俺を愛してくれる奴などいない

もう一つは憂歌団のファースト・アルバムに入っている。高校生の時に聞いたこのヴァージョンからはじまった。タイトルは《ドツボ節》で、カントリー・ブルースっぽく、撥ねないビート。で歌詞は

ちょいと皆さん聞いとくれ。俺も昔はええ身分。ツレを引き連れ先斗町、繰り出し贅沢し放題
やがて暮らしはガタガタ。寝るとこさえも無い俺に、ツレはみんな知らん顔。畜生、あの銭ありゃあなあ
俺の云うこと分かるだろ。明日のことは分からねえ。人間なんてそんなもの。銭の切れ目が縁の切れ目
銭のあるときゃあんたにも、みんなが友達面して寄ってくる。この世は本当に銭次第。冷たいもんさ、厭なもんさ。誰も構っちゃくりゃしねえ。そうだろ。
ドツボに嵌ったら、きっと分かるさ。何時までもあると思うな親と金。

いいですね。たしか歌詞は沖テルヲに依るものだと思うが、「何時までもあると思うな親と金」で締めくくる辺りが素敵。イイネ。