狐狸妖怪

ややこしい「きつね」と「たぬき」について。そば/うどんに関して、関西と関東で「たぬき」の違いがあるというのは、よく知られていることだと思う。ただ、ここに京都と大阪の差異もあるからややこしい。整理するとこうなる
東京:きつね=四角い油揚げが載ったそば/うどん  たぬき=天かすが載ったそば/うどん
大阪:きつね=四角い油揚げが載ったうどん     たぬき=四角い油揚げが載ったそば
京都:きつね=刻んだ油揚げが載ったうどん/そば  たぬき=刻んだ油揚げが載ったあんかけのうどん/そば
だから大阪では「きつねそば」や「たぬきうどん」は存在しない。もう一つ言うと、天かすの載ったうどんは、「ハイカラうどん」という(大阪などで、天かす入れ放題の所には、当然「ハイカラ」自体が存在しない訳だけど)。で、僕にとっての問題は大阪と京都の「きつね」の差異である。子供の頃から、きつねといえば、さほど甘くない刻んだ油揚げになじんでいるので、どうも大阪の甘くて大きい油揚げは苦手なのである。ちなみにたぬきに関してであるが、昔から猫舌の僕としては、京都のたぬきうどんは恐怖の対象である。なかなかさめないので、いつまで経っても食べられない。
まあそれはともかくとして、店によるが、大阪でも京都でも「刻んだ油揚げ」も、「四角い油揚げ」も両方食べることは可能である。京都風のきつねを大阪で食したかったら「きざみ」と頼み、大阪風のきつねを京都で食したかったら「しのだ」と頼めばよいのである。
これは、言語学記号論でいう「有徴(有標)marked/無徴(無標)unmarked」の良い例でもあろう。たとえば日本語で「茶」といった場合、普通は緑茶(煎茶や番茶)を示し、紅茶のことは指さない。紅茶を頼む場合は特別に「紅茶」という用語を使わなければならない。したがって日本語の場合は、緑茶は無徴であり、紅茶は有徴であるといえる。逆に英語などの場合、teaといえば紅茶を指し、緑茶を飲みたい場合は、green teaとかJapanese teaとか特定する冠を付けなければならない。したがってこの場合は、緑茶が有徴であるといえる。で、当然有徴の方が区別され/差別される対象なワケである。「画家」と「女流画家」とか、たとえばアメリカの「文学」と「黒人文学」とか。というわけで、京都では「しのだ」が有徴、大阪では「きざみ」が無徴。大阪の駅の立ち食いうどん屋で、「きざみ」があるのを見ると、少数派だなとか思いながら、それを頼む。
閑話休題。ところで、京都と大阪のあいだの町ではどうなんだろう。以前、新幹線の駅そばの汁がどこから黒くなるのかというのは見たことがあるが、「きざみ」と「しのだ」はどこで分かれるのだろう。京都=大阪間の町に住む人(id:scissorhandさん、id:Arataさんなど)たち、どうですか?
追記:狐狸問題については、こんなページhttp://weekly.freeml.com/chousa/kitutanu01.htmlがあった。