ポストパンク

「ポストパンク、ポストパンク」と連発しているが、どこからどこまでがポストパンクなんだろう。「ポスト印象派」にせよ「ポスト構造主義」にせよ、「ポスト何々」は、だいたい統一したスタイルとしてはないと考えればいいと思うのだが、といって現在までがずっとポストパンクかというとそれは長すぎる。昔は、ニュー・ウェーヴとか言ってたけれど、あれはパンク色を払拭したいレコード業界が付けた名前だという話も聞いたことがあるし、だいたい20年も経っているので「ニュー」もないだろう。一応始まりは79年あたり、すなわちクラッシュが『ロンドン・コーリング』を、ジャムが『セッティング・サンズ』を、そしてピストルズを離れたジョン・ライドンがパブリック・イメージ・リミテッドを発表したくらいに設定できるだろう。統一した様式はないと書いたし、統一できないところが「ポスト」たる所以なのだが、それでも大きく3つくらいの流れに分けることができるだろう。
 まず、パンクの様式面(攻撃的な高速ロックンロール)を踏襲して、より高速化していくハード・パンク、オイ!・パンク(これは高速ではないが)、ハードコアの路線、後には高速の限りを尽くしたナパーム・デスにたどり着いてしまうパンク進化論派。アメリカ西海岸での展開も注目したい。当時は全く逆と思われていて仲も悪かった*1NWBHM(ニュー・ウェーヴ・オヴ・ブリティッシュ・ヘヴィー・メタルね)も実は同一路線か?
 つぎにジャパンに代表されるいかにも「ニュー・ウェーヴ」。耽美的で「アート」好きが多いのも特徴。コム・デ・ギャルソン着てって感じで。イーノ、ロバート・フリップ、デイヴィッド・ボウイのような古参組とも仲が良いし、ニューヨークの状況とも絡んでいく。パンクの耳障りな面を採り上げ、実験性を追求したテクノ/インダストリアル/ノイズ派もここに括ってもいいかな。これにはドイツ勢も多く参入してくる。アシッド/テクノやトランスにつながるか。
 最後が僕が大好きなハイブリッド派。当然、パブ・ロックからの流れを踏まえた上で出てきたものだろう。2トーン一派やネオ・モッズ、ノーザン・ソウルからアシッド・ジャズ、グラウンド・ビート、2ステップにまで至る。これを考える上では、UKレゲエとのつながりははずせない。LKJ、デニス・ボヴェール、マッド・プロフェッサー。もちろんアスワドやスティール・パルスなど。エイドリアン・シャーウッド率いるOn-Uなんかは、これとインダストリアル路線を見事にミックスしている。ポップ・グループ一派も忘れてはいけない。アメリカでのフィッシュボーン(かつて「あまりにも過小評価されているバンド」と『ローリング・ストーン』誌に書かれていたがその通り)やレッド・ホット・チリ・ペッパーズもこの流れ。
この図式はあまりにイギリス中心主義かも知れない。ハイブリッドというけれど、アメリカではザ・バンドリトル・フィートもハイブリッドだったわけだし。でも80年代初頭の「第二期ブリティッシュ・インヴェージョン」がアメリカの音楽状況に与えた影響は大きい。また日本のこと、東京ロッカーズYMO一派のことも考えたらきりがない。もう一つ、「ポストパンク」と名付けること自体がパンクを特別視し過大評価してしまうことになるかもしれない(パンク前夜のパブ・ロックやグラムの状況が、単に「パンクの前段階」と見なされてはよくない)。でもこうやって整理すると、結構今もポストパンク状況なのかなという感じはする。

*1:当時は、日本の高校生のロック好きが見事にヘヴィメタかパンクかで割れていた。笑うほどに。