ファンキー・ピアノ

買った三枚というのは、ウェス・モンゴメリーフル・ハウス+3』、レッド・ガーランド・トリオ『グルーヴィー』、ホレス・シルヴァークインテット&トリオ『ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ』。三枚ともピアノが素晴らしい。ピアノという楽器は、基本的にさほど好きではないのだが、この3人、ホレス・シルヴァーレッド・ガーランドウィントン・ケリー(ウェスのアルバムに入っている)は別物。さらに後二者には、特別の思い入れのあるベーシスト、ポール・チェンバースが入っている。いいリズムだ。
 ジャズ・ファンクも、フリー・ジャズも、エレクトリックなものも好きだけれど、50年代ハード・バップはやはりいいな。昔、背伸びをして通っていたジャズ喫茶ではとにかく定番であった。
 中学校の時、学校の近くにジャズ喫茶ができて、なぜか中坊のくせにそこに入り浸っていた。インタープレイ・ぐがんという店で、夫婦でやっていた。大阪の有名なインタープレイ8という店からの暖簾分けでできた店だった。8(ハチ)という店は、山下洋輔トリオの大阪でのホーム・グラウンドみたいな店で、「ぐがん」というのも山下トリオの曲から付いたそうだ。で、そこで後期のコルトレーンとかオーネットとかアイラーとかのフリーを叩き込まれた訳だが、同時に50年代ハード・バップも随分聴かせて貰った。でもフリーであろうが、バップであろうが、黒いのばっかり。考えてみると、一種の英才教育である。そこの店長がなぜか僕のことを「チェンバース」と呼んでくれていた。ちょっと似ていたのか? てな訳でチェンバースには思い入れがあるのだ。
そのうち僕も街中の老舗のジャズ喫茶に行きだしたりして、ぐがんとはご無沙汰になってしまった。その後、店をたたんだと聞いた。確かに街中ではないし、さほど流行っている様子もなかった。店長はどうしているんだろう。ニューヨークにいたときに、知り合いの紹介で山下氏に会う機会があり、ぐがんの話をして店長について訊いたら、元気にはしているらしい。一度、会ってみたいものだ。音楽の手ほどきをしてくれた恩人だから。
彼の英才教育にもかかわらず、その後の僕は、むしろロックに走り、さらにソウル/ファンクとかレゲエに没頭していき、ジャズとは縁遠くなってしまった。でも考えてみたら「三つ子の魂」で、ブラック・ミュージックにはまっていったのは、ぐがんの店長の教育に拠るところが大だと思う。