レザー・ジャケットの意味作用

今朝の『せやねん!』で、「マネーな人」として採り上げられるまでになったレーザーラモンHG。吉本の新喜劇で脇役として頑張ってたのを見てるだけに、喜ばしいことだとは思う。
しかし、あの格好、ゲイ・コミュニティにおける評価はどうなんだろう。ゲイをステレオタイプ化し馬鹿にしているとは見られていないんだろうか。これは、いわゆる「おねえ」キャラの人たちにも言えることだけど。ただ、「ハード・ゲイ」の人たちって、ゲイの中でもごく少数である(普通のゲイの人々は、普通の格好をしている訳で)から、大して文句もでないのかもしれない(少数派だからいいってもんじゃないけど)。ただ、大阪のゲイ・バーなどに通い詰めて研究したというエピソードや、今年の大阪でのゲイ・パレードに出たらしいこととかからすると、それなりにリスペクトはあるみたいなので、ゲイ・コミュニティでも受けられているだろうか。やっぱり批判もあるみたいだけど。
ちなみにWikipediaでのエントリ(レイザーラモンHG - Wikipedia)は、異常に詳しくて笑える。キャラクター確立において、ケンドーコバヤシの果たした役割が大きいとか、中山きんに君が「レイザーラモンは解散して欲しい。そうすれば、俺と住谷さんでコンビが組める」と半分本気で思っているらしいとか。あと、こちら経由(id:inainaba:20051104#1130997941)で見たこれは、あまりに下らなくて笑った→http://www.tok2.com/home/norwareitum/hg.html
で、レザー・ジャケットである(おっさんなので、「革ジャン」とついつい言ってしまう)。特にダブルの・ライダーズ・ジャケット。HGは、エナメルだけど。こないだ書いたドレッドロックスと同じように、サブカルチャーにおいて、さまざまな「意味」が付与されてきたものの代表格であると思う。メディアに大々的に採り上げられたはじめは、マーロン・ブランドの『乱暴者』だろう。その後、エルヴィス・プレスリーあたりで、リーゼント+革ジャン=ロックン・ローラーというのが定着したのではないか(ハンブルク時代のビートルズとか)。で、60年代、イギリスのロッカーズアメリカのヘルズ・エンジェルズというサブカルチャーのトライブの登場で「不良」や「反抗」や「攻撃」の表象となる。70年代には、少し下火だったようだけど、ラモーンズ、クラッシュ、シド・ヴィシャスたちが着ることで、パンクといえばライダーズとなる。で、これがジューダス・プリーストにはじまり、ヘヴィー・メタルの「ニュー・ウェイヴ」たちが流用していくわけだ。最近では、ギターウルフが、明らかにラモーンズを指し示す記号として革ジャン+皮パンを採用していたことが思い出される。この場合指示されたものが、「不良」や「反体制」などの概念ではなく、「ラモーンズ」という固有名詞であったことは興味深い。
SMの表象でもあるか。パンクにレザーものが受容されるときに、ヴィヴィアン・ウェストウッド(とマルコム・マクラーレン)が、ボンテージ・パンツやラバー素材とともに、SMを表象するものとして皮革素材を取り入れたことは大きいと思うが。
これがいつ、ゲイのなかでもマスキュリニティを誇示する人々にどのように取り入れられていったのだろうか。僕が中学生くらいのとき、アル・パチーノの『クルージング』が流行ったから、70年代くらいかな。もちろん、パブリック・イメージとしては、後期のフレディ・マーキュリーの影響は大きいだろうけど(江口寿史の「トーマス兄弟」とか)。
ちょっと話はずれるけど、かつての日本の「不良」、「ツッパリ」、「ヤンキー」という文脈において、ロックン・ロールの表象が転用されていったか、そしてそれがどのように捨て去られたのかも興味がある。キャロル、クールスから横浜銀蝿、アラジン、はては気志團に至るまで。今では、ヒップ・ホップ系が強いみたいだけど。
元アマチュアのプロレスラー(この矛盾した言い方好き)であるHGにおいては、もちろんロックン・ロールの表象ではない。根がプロレスだからね。ナンシー関が、プロレスラーの髪型について語っていたのを思い出す。長州力の長髪や鶴見五郎のアフロにおいては、本来前者なら反体制あるいはロック、後者はブラック・プライドあるいはファンクといったものの表象であったものが、そうした「意味されるもの」はどこかに行ってしまい、すべては「プロレス」に回収されてしまう、といった論旨であった。至言である。この「プロレスラーという『人種』」(『ナンシー関 大コラム』に採録)というエッセイは、バルトの「プロレスの世界」(『現代社会の神話―1957 (ロラン・バルト著作集 3)』)と並んで、プロレスを記号論的に論ずるための基礎文献だと思う。
リングに上がっているHGを見て、往年のアドリアンアドニスって革ジャンを着たゲイ・キャラだったことを思い出した。彼は、太ってたけど。
あ〜長い。HGの出たハッスルと、元ネタのWWEと、プロレスの開き直りについても書きたかったけど、また項を改めて。