ご専門は?

承前。以下は美学・美術史専攻に属する人間--学生も教員も含め--は、大体経験していることだと思う。
世間の人に「ご専門は」と聞かれたときに、何て答えるか難しいことが多い。もちろん「日本近代における風景写真を社会的なコンテクストに定位させて云々」などと言って、「ほぉそうですか」と遠い目をされるのも何だし、もう少し分かりやすいキャッチ・フレーズをとは思うが、昨日も言ったとおり、世間では美術は創るもんで研究するもんじゃないと思っているふしがあって、いまいち分かってもらえない。教えている学部が芸術学部(制作系)だし、しかも服装が、世間で思われている「学者さん」の格好ではなく、どっちかというと「画家さん」のカテゴリーに近いこともあって、大体「創る人」と思われてしまう。で、大学では、「学部共通科目:芸術理論担当」の講師ということになっているので、「芸術学部で理論を担当しています」と答えるけど、それでもしつこく「で、作品はどういうのをお作りに?」と言われることもあり、「だ・か・ら、作る方はしないんです」と言うと、大体訝しげに「ほぉ」と、「ややこしそうだから、もう触らんとこう」という感じで流されることになる。ちなみに「写真研究」と言った日には、もう99.9%「どんな写真をお撮りに」と来る(これは写真に関する言説が、日本では大体写真家によって作られてきたことと関係があるかも知れない)。「美術評論家みたいなもんです」って言えば、何となく納得されるのかもしれないけど、最終の手段として取っておいている。
ちなみにもともとは理系(応用数学専攻)で、高校・大学とアメリカで行ったせいで日本の大学の状況に疎い連れ合いに言わせると、美学美術史は、「社会科の勉強」というイメージがあるらしい。確かに中学校までの科目編成だとそうなり、「図工/美術科」とはちょっと違うことは分かってくれているので、それはそれでいい。ちなみに彼女にとっては、「文学部」というのは、どうも「国語科」のイメージがあるらしく、「humanities」なんだというと漸く納得してくれる。
じゃあ、何が自分の専門かというと「視覚文化論」が一応一番近いとは思うけど、それこそ世間の認知度はもっと低い。でプロフィールには、「芸術学」という冠を付けて、「芸術学/視覚文化論」と書いている。
じゃあ、オフィシャルに僕の研究領域が何かっていうと、昨日も書いた「科研」、すなわち学術振興会の科学研究費補助金の分類においては、人文社会系>人文学分野>哲学分科に属する「美学・美術史」ということになる。その下にキーワードがあって、それが「A.美学、B.美術史、C.芸術諸学」となっていて、まあ僕は「美学」とも言い切れないし、「美術史」というにも問題はあるし、「芸術諸学」が妥当だろうと、冠には「芸術学」を謳っている訳だが、この辺りが実にややこしい(科研の研究分類に関しては科研費ハンドブック(pdf)の別表3(19-36)を参照のこと)。
もちろん「美学」「美術史」「芸術学」っていうのは、ヨーロッパから伝わった研究領域であるのだけど、これが「移植」される段階で色々な「ずれ」が起こっているのである。その辺りについては、項を改めて。