ボブ・ロス論

風景論ネタ、もういっちょ。
30分で、うだうだ喋りながらピクチャレスクな風景画を描き上げてしまうアフロのおっさん、ボブ・ロスのDVDが6本も出ている→Amazon | 本, ファッション, 家電から食品まで | アマゾン
僕がニューヨークで住んでた部屋には、ケーブルを引いてなかったので、映るチャンネルが非常に少なく、三大ネットワーク(それも一つは殆ど見えない)とPBSとスパニッシュ・チャンネルくらいだった。PBSっていうのは、いわばNHK教育みたいなもんで、教養番組とかドキュメンタリーを延々一日中やっているので、よく流しっぱなしにしてたけど、そこで散々やってたのが『ジョイ・オヴ・ペインティング』だった。「ほぇ〜」とか口を開けながら見てたもんだった。
うだうだ喋りながら手早く仕上げるってのは、日本でも昔やってた『世界の料理ショー』とか、中華料理の『ヤン・キャン・クック』(好きだったなぁ)などの料理番組のパターンをそのまま踏襲したものだと思う。
で、喋りながらも間断なく手は動き続け、白いカンヴァスに「浮かび上がる」かのように、風景画が出来上がっていく(DVDの早回しで見ると無茶苦茶面白い--32倍速だと50秒くらいで出来上がる)。
その間、何回も何回も繰り返され、刷り込まれるのは、「感じるままに描けば良いんです」「考えることはないんです」というようなメッセージ。一種の「自動書記」か。「皆さんにもできますよ」「ほ〜ら簡単でしょう」と、殆ど催眠術みたい。語りかけ、「呼びかけ」の技法(ちょっとカルトっぽい)。
「自動書記」を可能にするために、絵は、モティーフのレヴェルを飛び越して、絵の具の物質的レヴェルまで還元される。ボブが風景を「見ずに描く」っていうのもポイントかも知れない。その結果できあがる--というより自動的に浮かび上がる--のが、すっごくベタなピクチャレスク風景画というわけ。
西洋近代における風景概念との関係として考えると面白いかも。またその言説の中に、絵画のモダニズムシュルレアリスム表現主義印象派などさまざまな言説が断片化されて侵入しているのも面白い--絵画言説のブリコラージュか。あと撮り方にも仕掛がありそう。
これは風景論の前フリの小ネタとして使える。マジに自動化されたピクチャレスク。「ボブ・ロス」という風景描画装置。一家に一台かも。