ノヴェルティ・ソング

昨日、id:spaceoddity君に薦めたCD(「必買」とはよう言わんけどね)
まずは湯浅学編集の「男」--ブロンソンズ的な意味での「男」--な曲ばっかりのコンピレーション。「曲」と書いたが、猪木とか長島とかは語りだけだし、大山総裁に至っては呼吸法だけ(しかもダブ・ヴァージョン)。総裁とか勝新とか馬場とか楳図とか岡本太郎とか、きつすぎます→おとこ - 蒼猴軒日録。際物(際物って本来はそういう意味じゃないけど)というか、マージナルというか。これを聴くと、猪木ってマージナルな存在だけど、馬場は、なんか「マージン」のはるか向こうにいることが分かる。「満州里小唄」っていう曲を至極真面目に唄ってるんだけど、真面目に唄えば唄うほど、時空が歪んでいく。

男 宇宙

男 宇宙


もう一枚。日本のノヴェルティ・ソングの歴史に興味ある人にはおすすめ(って、どれくらいいるのか分からないが)。タイトルはどうかと思うが、確か澤田隆治選曲で、クオリティは高い。ちなみに「ノヴェルティ・ソング」とは、ほぼ「コミック・ソング」と同義だが、もう少し広く、「珍奇性」を旨としたものを指す。


同時代でノヴェルティ・シンガーといえば、嘉門達夫も忘れてはいけないけど、やっぱりこの人。コント赤信号との名曲、「男は馬の助」も収録。

中毒?ベストアルバム

中毒?ベストアルバム


ついでにもう一つ。海外ものでは、モンティ・パイソンの曲を殆ど作っていて、また映画『ラトルズ』ではジョン・レノンをパロディー化した役を名演したニール・イネス(元ボンゾズ・ドッグ・バンド)。ビートルズ好きのみならず、ユートピアとかXTC好きにはお薦め。

Re Cycled Vinyl Blues

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まだまだあるけど、とりあえずこんなもの。
ノヴェルティ・ソングとか冗談音楽って、ポピュラー音楽史のなかでも、「見過ごされてきたもの」の代表だと思う。かつてのポピュラー音楽批評や歴史記述って、大体クラシック音楽に対しては、凄く反感を示すくせに、その語り口--ヒストリオグラフィ--というのは、「シリアス」なものに重きをおくという芸術音楽の語り口に重きをおくもんだったから、ノヴェルティ・ソングは、それこそ「低級」なものとして、無視されてきた。
でも、小林信彦大瀧詠一によるクレイジー・キャッツ再評価、さらに遡ったスパイク・ジョーンズ(映像の人ではなく、昔のジャズの方)評価や、YMO〜スネークマン・ショーのヒットなどで、僕などが音楽を聴いていたころには、その空気は変わりはじめた。エンタテインメントとしての側面から言うと「笑い」は欠かせないし、目立たないけど「笑い」の要素は、クラシックにも結構あるし、ポピュラー音楽では、R&Bにおけるザ・コースターズとか、60sビートにおけるフレディ&ザ・ドリーマーズとか、あとパンクにおけるトイ・ドールズとか、勿論ルーファス・トーマスからP-Funkへのジャンプ・スーツの系譜も。その辺りをつないでみると、オルタナティヴな音楽史がひとつ出来上がると思う(「低級」なものをサルヴェージするだけではなく)。
制作者がノヴェルティや冗談を意図していないっていう意味では、前掲の『男・宇宙』なんかは、その範疇からははずれそう(みんな大真面目だから)にも思えるが、ただ、湯浅学という採集者=コレクターによって「男」というコンテクストに入れられることで、一気にそこらのノヴェルティ・ソングを蹴散らすほどの可笑しみを醸し出す。幻の名盤解放同盟の著作--『幻の名盤百科全書』など--も、そうした視点から読み直すと面白いかも知れない。みうらじゅんとの関係とか、80年代『宝島』誌という「場」の問題も含めて