『ピクチャレスクなものの探求』
そういや、久しく文献紹介とかしていないなと思い、リハビリついでに昔、横浜写真について研究していた時に世話になった本を。ピンポイントだけど。
The Search for the Picturesque: Landscape Aesthetics and Tourism in Britain, 1760-1800
- 作者: Malcolm Andrews
- 出版社/メーカー: Stanford Univ Pr
- 発売日: 1990/10/01
- メディア: ペーパーバック
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- 第1部:ピクチャレスクの発生
- 詩とイギリス風景の発見
- 風景絵画とピクチャレスクの諸法則
- ピクチャレスク趣味の進化:1750〜1800年
- 第2部:ピクチャレスク・トゥアー
ピクチャレスクに興味を持って調べていたときに、安西信一さんの著書とこの本(あともちろん高山宏氏の諸著作)を手がかりにしながら考えていた。その辺りの文献をざっと紹介すると、
- 安西信一「ピクチャレスクの美学理論」『美学』158
- 同「ピクチャレスクの『移植』――英国式庭園から現代へ」金田晉編『芸術学の100年―日本と世界の間』
- 同「イギリス風景式庭園の美学―「開かれた庭」のパラドックス
- 高山宏『目の中の劇場―アリス狩り』
- 同『庭の綺想学―近代西欧とピクチャレスク美学』
で上記の本とともに、この本は、非常に明快にピクチャレスク理論を腑分けしていて、いいガイドになった。
もう一つ、ピクチャレスクと絵画、ピクチャレスクと庭園の問題は、結構扱われている一方で、比較的扱われていなかった「ピクチャレスク・トゥアー」の問題を第2部で正面から扱っているのが、この本の特徴だろう。ピクチャレスク美学というのは、18世紀に最高潮となるんだけど、その19世紀における通俗化した展開を考えるときに「トゥアー」および「観光」の問題は避けて通れないことで、そういった意味でもこの著書は参考になった。ちなみに、19世紀におけるピクチャレスクの問題については、以前(風景の人類学 - 蒼猴軒日録)触れたニコラス・グリーンのThe Spectacle of Nature: Landscape and Bourgeois Culture in Nineteenth-Century Franceが面白い視点を提供している。
なんで、ピクチャレスクに興味を持ったかっていうと、これまで主に歴史資料としてしか扱われてこなかった横浜写真を考えるときに、その「風景」表象が、どうやらピクチャレスク絵画における統語法と似ているなと思い出し、それが切り口になるかなと考えたから。で、さまざまな植民地主義的ピクチャレスク写真のヴァリエーションのひとつとして横浜写真を捉えてみようと思った。
著者のアンドリュースは、現在ケント大学の英語英文学部(School of English)のヴィクトリア期研究と視覚研究の教授→http://www.kent.ac.uk/english/staff/andrews.html。ディケンズ研究が専門らしいが、ピクチャレスク美学の研究では、さまざまな業績を残している。とくに、ピクチャレスクについて書かれた文献の集成であるThe Picturesque: Literary Sources and Documents (Literary & Cultural Movements: Sources & Documents)の編纂もしている。またオックスフォード美術史シリーズの一冊である下記の本も、幅広い視野で面白いので、そのうち紹介したい。
Landscape and Western Art (Oxford History of Art)
- 作者: Malcolm Andrews
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (T)
- 発売日: 2000/02/03
- メディア: ペーパーバック
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