プローン法
以前、『アメリカの器物』 - 蒼猴軒日録で紹介したAmerican Artifacts: Essays in Material Cultureのケネス・ハルトマンによる序論を読み返していたら、なかなか面白く、ゼミなどに使えそうなので、ちょっとだけネタ公開。
この本は、もともと編者の一人、美術史家のデイヴィッド・ジュールズ・プローンが、イエール大学で行っていた「アメリカの美術と器物 American Art and Artifacts」というゼミに提出されたペーパーを基にしている。
プローンという人は、アメリカ美術史では有名な人らしく、また教育者としても知られているらしい。で、彼が確立した視覚文化、物質文化に関する研究の仕方というのが「プローン法 Prawnian Method」。この本の序論は、ハルトマンという人(一番弟子なんだろう)が、プローン法について解説したものである。序論はもう少し詳しく解説がついているが、大体以下のようなもの。ざっと粗訳。
- 考察の対象を選ぶこと。
- その対象を徹底的に記述すること。それに関連するものの諸側面――物質的、空間的、時間的――すべてに充分に注意を払って。細部に注意する(そのためには、専門用語〔を知り、使うこと〕が便利であろう)ものの、つねに全体を見据えておくこと。記述に分類学的な構造をしっかりと染みこませながらも、話の進め方の流れには留意して。対象そのものと同じくらい部分部分が相互依存的になるように読みやすく、読み手にうったえるものにすること。この過程は、スケッチや概略の素描をしておくと、より深いものになるかもしれない。ただ、この段階では、序論、結論、課題の再陳述、あるいは自伝的な告白などに関わるような大事な言葉は取っておいて、ただただ見たものを記述すること。しっかりと見ること――物質的な対象を言語的な記述に翻訳すること――の快楽を楽しむことを忘れずに。
- 選んだ対象に対するあなたの知的、感覚的な反応を、あなた自身による先ほどの記述から洞察や証拠を引き出して、演繹のかたちで解明すること。
- そして、あなたの感情的な反応も同じように、あなた自身による先ほどの記述から洞察や証拠を引き出して解明すること。
- ここでついに、あなたが選んだ対象の意味すること、その対象が流通し/流通した世界――ある意味でそれが換喩的に表象する世界――について示唆することに関する仮説を受け入れることができる。その対象がどのような文化的な役割を果たしたか/今も果たしているのか? どのような対抗する――拮抗、両義性、矛盾など――さまざまな意味の母体から、そのもっとも主要な意味が生成されるのか?
- あなたの立てた解釈的な仮説を立証するのには、どのような調査が必要かについて、創造的に考えること。あなた自身が面白いと思う考察ならばどのようなものでも。また最終的に書き上げた後に想像される質疑を予想して。そして、行動予定(あるいは研究計画書)を、注釈付き文献表とともに準備すること。あまりにも焦点を絞りすぎて、解釈の可能性を狭めることのないようにすること。この段階では、向かっている方向(あるいはいくつかの方向)や、今からしようとしている調査の種類や、研究計画のはらむ調査の問題点などを簡潔に述べること。
- 最終的に、洗練された解釈的な分析を書くこと。
- プローン分析
- 記述→演繹→考察→調査→解釈的分析
ざっとこんな感じ。まあ芸術学や美術史の研究や論文を書くときには、みんな無意識に辿っている筋道だと言えばそうなんだけど、ここまでマニュアル化されると分かりやすい。
で、実際の指導は以下のように行われるとのこと。
- 対象の選択、[指導教員の]認定を得ること
- 第一回目の記述
- 指導教員との面談
- 記述の書き直し
- 演繹
- 考察
- 研究計画書と注釈付き文献表
- 第二回目の指導教員との面談
- 調査と執筆
- 口頭発表
- ペーパーの提出
う〜ん系統立っている。ドクターのゼミ、このスケジュールに従って進めてみようかな。