『視覚文化リーダー』

The Visual Culture Reader

The Visual Culture Reader

おそらくは、一番早く編まれた視覚文化にかんしてのリーダー(読本)。
昨日のエントリで紹介した『視覚文化--イメージと解釈』があくまでも、美術史研究における革新運動という側面が強かったのに対し、アメリカで編集されたこのリーダーに、いわゆる旧来の美術史的な研究対象を扱った論文は、タマール・ガープのそれくらいしかない。
それよりも、問題となっているのは、文化であり、日常生活、ジェンダー、人種/民族、セクシュアリティなどの今日的な諸問題である。とくにジェンダー研究やクイア研究から影響が多い。これらは、社会学でも、あるいは現代のアートでも中心的な問題となっていることであり、現代社会におけるヴィジュアリティというものが、焦点となっているようである。「歴史」ではなく、「同時代」が問題となっている。「現場で使える理論」を目指しているのが、このリーダーが目指す「視覚文化」であるといってもいいだろうか。

ニコラス・マーツォーフ編『視覚文化リーダー』(1998)

  • 序論/挑発
      • ニコラス・マーツォーフ「視覚文化とは何か?」
      • アイリット・ロゴフ「視覚文化を研究すること」
      • エラ・ショーハット、ロバート・スタム「視覚文化をナラティヴ化する--多中心的な美学へ」
  • 1,視覚文化の系譜--美術から文化へ
      • ルネ・デカルト「光学」
      • マーティン・ジェイ「モダニティの視覚的制度」
      • ロラン・バルト「イマージュの修辞学」
      • リゼルダ・ポロック「モダニティと女性性の空間」
      • キャロル・ダンカン「近代美術館」
      • ジェームズ・クリフォード「美術と文化を蒐集すること」
      • ポール・ヴィリリオ「トポグラフィ的な記憶喪失」
  • 2,視覚文化と日常生活
      • マーシャル・マクルーハン「鏡のなかの女性」
      • アン・レイノルズ「視覚的ストーリー」
      • ミシェル・ド・セルトー「『日常的実践のポイエティーク』より」
      • ジョン・フィスク「ヴィデオテック」
      • マリタ・スターケン「壁、スクリーン、イメージ--ヴェトナム退役軍人記念碑」
  • 3,仮想性〔virtuality〕--仮想的身体、仮想的空間
    • (a)仮想的身体
      • ダナ・ハラウェイ「残像」
      • リサ・カートライト「科学と映画〔the cinema〕」
      • スーザン・ボルド「スレンダーな身体を読む」
      • アン・バルサモ「最重要点〔cutting edge〕にて--美容整形とジェンダー化された身体の技術的生産」
    • (b)仮想的空間
  • 4,植民地文化、ポスト植民地文化における人種とアイデンティティ
    • (a)視覚的植民地主義
    • (b)人種とアイデンティティの視覚化
    • (c)アイデンティティと越境文化〔transculture〕
      • エイドリアン・パイパー「白人として通ること、黒人として通ること」
      • ココ・フスコ「文化間パフォーマンスにおける他者の歴史」
      • ネスター・ガルシア・カンクリーニ「パスポートに注目する--他文化主義についてのディベート視覚的思考」
      • オリアナ・バッドリー「新世界を産む〔engendering〕--レイプと服従についての寓意」
  • 5,ジェンダーセクシュアリティ
  • 6,ポルノグラフィ
      • リンダ・ニード「『女性ヌード--芸術、猥褻、セクシュアリティ』より」
      • サンドラ・バックリー「ボンテージのペンギン--日本のマンガにおけるグラフィックな物語」
      • リチャード・ダイヤー「偶像の思想--ゲイ・ポルノグラフィにおけるオルガスムスと自己反省」

原書目次は→[http://www.amazon.com/gp/reader/0415141346/ref=sib_dp_pop_toc/
ちなみに、このリーダーは、2002年に全面改訂され、半分以上の論文が入れ替えられているようである→The Visual Culture Reader。何が削られ、何が入ったか、章立てがどのように変わったか、その理由は何なのか考えてみたら面白いだろう。いずれ機会があれば。