『19世紀視覚文化リーダー』

The Nineteenth-Century Visual Culture Reader (In Sight: Visual Culture)

The Nineteenth-Century Visual Culture Reader (In Sight: Visual Culture)

視覚文化研究の研究対象としては、もちろん古代や中世あるいはルネサンスバロックの視覚文化を研究することもあるのだが、やはり博覧会、百貨店、都市における遊歩、パノラマに代表される視覚装置、写真、そして観光などなど、モダニティを考える上で重要な事象が頻出する19世紀のフランス、イギリスが最も多く研究されている。そうした研究成果を概観できるのが、このリーダーである。
序の後、同時代のものを中心とした視覚文化論の基礎文献--ボードレールマルクスフロイト、リーグル、クラカウアー、ベンヤミン--が「系譜」として並べられ、さらに技術、展示、都市/建築、歴史、人種/ジェンダー、文化の政治学の6つの問題領域に分けられ(ベンヤミンフーコー、バルトなどは各章に入れられている)、短いものも含め、相当量の文章が並んでいる。
19世紀が対象であるからだろう、他の視覚文化リーダーでは、すっかり消え失せていた「美術史」の範疇にも入る論文--クラークやノクリン--が挙げられているのも特徴で、またヨーロッパだけでなく、あまり触れることのない19世紀アメリカを研究対象としたものも含まれるなど、バランスの良いコレクションである。来年度の講読では、第4部の「展示の実践とイメージの流通」から論文を一本選ぼうと思う。

  • 1,視覚文化と研究領域としての実践
    • ヴァネッサ・R・シュウォーツ、ジャネーヌ・プルツィブリスキー「視覚文化の歴史--21世紀の学際性と19世紀の〔研究〕対象
    • マーガレット・コーエン、アン・ヒゴネット「複雑な文化」
    • マイケル・L・ウィルソン「視覚文化--歴史的分析のための便利なカテゴリーなのか?」
  • 2,諸系譜
  • 3,テクノロジーと視覚
    • ミシェル・フーコー「一望監視方式」
    • ジゼル・フロイント「肖像写真の先駆者たち」
    • ジョナサン・クレーリー「観察者の技法」
    • ヴォルフガンク・シヴェルブシュ「パノラマ的な旅行」
    • トム・ガニング「『動く絵』--映画の忘れられた未来の物語、映画生誕100年の後に」
  • 4,展示の実践とイメージの流通
    • トニー・ベネット「展示的複合体」
    • ダニエル・J・シャーマン「19世紀フランスのブルジョアジー、文化的流用、美術館」
    • ジェームズ・R・ライアン「視覚的指導」
    • エリカ・ラパポート「ショッピングの新時代」
  • 5,都市と建築環境
    • カール・E・ショースキ「リングストラッセ、それに対する批判、都市的モダニズムの誕生」
    • T・J・クラーク「ノートル=ダム大聖堂からの眺め」
    • デイヴィッド・ヘンキン「路上の言葉--戦前のニューヨークにおける儚い記号群」
    • ジュディス・ウォルコウィッツ「都市の観者性」
    • デイヴィッド・ナイ「電気と標識」
    • ジェニファー・ワッツ「天国で撮られた写真--ロサンジェルスと地域的アイデンティティの創出:1880〜1920年
  • 6,過去の視覚化
    • ピエール・ノラ「記憶と歴史の間で--『記憶の場〔Les Lieux de Memoire〕』
    • モーリス・サミュエルズ「絵入りの歴史書--言葉とイメージの間の歴史」
    • ダーシー・グリマルド・グリズビー『革命の子、白い父、クレオール的差異--ギヨーム・ギヨン=ルティエールの《祖先の誓い》(1822)
    • カーク・サヴェージ「解放を鋳造する--ジョン・クインシー・アダムズ・ワードの《解放された奴隷》」
    • ジョイ・S・カッソン「歴史への要求を賭ける」
  • 7,差異の想像
    • リンダ・ノクリン「想像のオリエント」
    • S・ホリス・クレイソン「女性の売買を描く」
    • エリック・エーメス「エキゾティックなものから日常的なものへ--ドイツにおける民族誌的展示」
    • マーカス・ヴァーヘーゲン「疑惑のボヘミア
  • 8,内面と外部--個人的なものと政治的なものを見る
    • リサ・ティックナー「幟〔banner〕と幟作り」
    • シャロン・マーカス「戸口のカーテン〔portiere〕と都市的観察の擬人化」
    • ショーン・ミシェル・スミス「『赤ちゃんの写真はいつも宝物』--家族写真アルバムにおける優生学と白人性の再生産」
    • デボラ・L・シルヴァーマン「新しい心理学」