視覚文化としてのサーカス
とりあえず付け焼き刃で基礎知識のお勉強→Circus - Wikipedia
思いついたポイントをいくつか。
- サーカス自体の歴史は、古代ローマに遡るが、いわゆる近代サーカス--円形の劇場で、客席に囲まれたアリーナがあって、アリーナで曲馬、アクロバットなどが行われるもの--は、フィリップ・アシュトリーによって、1768年にイギリスではじめられたという。円形ものとしては、ジェレミー・ベンサムによる一望監視型監獄(パノプティコン)の発案(1791)、ロバート・バーカーのパノラマ館(1792)に少々先行するが、ほぼ同時代と言っていいだろう。もちろん中心から360度見渡すか、周りから中心を見るかの違いはある(もちろん円形劇場自体は、それこそ古代ローマからあるが)。
- 円形劇場と並んで、重要なのは、「移動」という側面。やっぱり街から街へと旅するというのがサーカス(木下大サーカスでも、細かい仕事は現地調達しているみたい)。旅芸人というのは、昔からあるけれど、これだけ大人数が移動するには、やはり鉄道の発達を待たなければいけないだろう。サーカスの流行は、アメリカに渡り、サーカス列車(Circus train - Wikipedia)というのが出来るのが、19世紀初頭のことである。「テント」の問題も考えないと。
- 移動といえばプロレスもあるな。プロレスの発生にサーカスは関わっているんだろうか? と調べてみたら、イギリスにおけるプロレスの発生に、上記のアシュトリーが関わっているらしい→プロレス世界史年表参照。つながる、つながる。この辺り、来年度の授業ネタにしよう。
- また、いわゆる「フリークス」の見世物が出てくるのも、アメリカであるという。「P・T・バーナムのミュージアム、メナジェリー&サーカス」がそのはじめらしい(サーカス列車もこの団体がはじめ)。「ミュージアム」という名前からして、驚異の部屋から近代ミュージアムへという蒐集/展示の歴史と関わっているのが分かる。もう一つは、人類学による人種的他者の発見の問題とも関わってきそう。美術館/博物館や植物園/動物園といった近代的展示装置から排除されることになる「驚異(ワンダー)」の部分をサーカスが引き受けるという構図か?
- で、そういう「近代」から排除される側面をサーカスが引き受けることによって、サーカス自体がいわば他者として、ロマン化されていくということがあるのではないか。「移動」「周縁」「下等」という側面に引かれていく文学者や写真家が多いのも、この辺りか? 僕がまず思い出すのは、江戸川乱歩。「踊る一寸法師」における耽美主義とか(「少年探偵団」ものでも重要な役割を果たす)。写真でぱっと思い出すのは、アウグスト・ザンダーとか、ダイアン・アーバス(Masters of Photography: Diane Arbus)とか。クロちゃんとヒロというワンダーを引き連れる「安田大サーカス」も、そうした「サーカス」という言葉の持つコノテーションを利用していると考えられる。
- 動物愛護の側面からへのサーカスへの倫理的批判は、ロフティング『ドリトル先生のサーカス (岩波少年文庫 (024))』、『ドリトル先生のキャラバン (岩波少年文庫 (026))』にすでに現れている。ドリトル先生によるサーカス改革。ヴィクトリア朝における動物愛護の問題点については、ネコと人間 - 蒼猴軒日録で少し書いたが、興味深い。
- 1919年のレーニンによるサーカスの国有化の問題も面白い。多分、上記のようなロマンティックな側面を切り捨て、サーカスを近代的なものとして作り直す作業か? サーカスのモダニズム。ロシア・アヴァン=ギャルドとの関係は? WELCOME TO BOLSHOI CIRCUS参照。
- サーカスのポストモダン? 「アート」としてのサーカス→http://www.cirquedusoleil.com/cirquedusoleil/default.htm。_VSも参照(いとうせいこう+押切伸一+桜井圭介による鼎談。『ダンシング・オールナイト―グルーヴィな奴らを探せ! (ICC BOOKS)』の原型)。
- 日本におけるサーカスの歴史は以下を参照。江戸における軽業が、サーカス受容の土台となるらしい。軽業は、中国との関係もあったように思う。朝倉無声『見世物研究 (ちくま学芸文庫)』をチェックしてみよう。
- 日本語で読めるサーカス関係のビブリオグラフィ→サーカス(書籍)。すげぇ。マルチ・パフォーマー、チャン助氏による見世物広場から。
- 木下大サーカス京都公演のレポートはこちら→http://d.hatena.ne.jp/akf/20051226。クレーリーが言及してるのか(『知覚の宙吊り―注意、スペクタクル、近代文化』)。また今度チェック。
僕が実際行ったサーカスは、小学校低学年の頃京都に来たボリショイ・サーカス。動物ショーが多く、楽しみにしていたクラウンが小さくってよく見えなくって、少しがっかりした覚えが。