目次情報。歴史家エリック・ホブズボウムによる「伝統の創出(Invention*1 of Tradition)」論(『創られた伝統 (文化人類学叢書)』)を承けるかたちで、アメリカの日本研究者(歴史学、社会学、人類学など)たちが近代における「伝統」というものの構築を論じた重要論集。日本の研究者の論文(原典をチェックしてないので、論文題名は英語からの翻訳)も含む。
スティーヴン・ヴラストス編『近代の鏡--近代日本における伝統の創出』
- スティーヴン・ヴラストス「伝統--過去/現在の文化と近代日本史」
- 1,調和
- アンドリュー・ゴードン「日本式労働管理の創出」
- 伊藤公雄「『和』の創造と近代日本における聖徳太子イメージの変容」
- フランク・アップハム「創出された伝統としての弱い法意識」
- 2,村
- アーウィン・シャイナー「日本の村--想像されたもの、現実のもの、論争されたもの」
- スティーヴン・ヴラストス「伝統なき農本主義--戦前の日本のモダニティに関するラディカルな批判」
- ルイーズ・ヤング「満州を植民地化する--帝国神話の作成」
- ジェニファー・ロバートソン「一村かかる〔It Takes a Village〕--戦後日本における国際化とノスタルジア」
- 3,民俗
- 橋本満「地方--柳田国男の『日本』」
- H・D・ハルトゥーニアン「民俗を形づくる--歴史、詩学、表象」
- 4,スポーツ
- 井上俊「武道の創出--嘉納治五郎と講道館柔道」
- リー・A・トンプソン「横綱と場所〔championship〕システムの発明、あるいは双羽黒の復讐」
- 5,ジェンダー
- ジョーダン・サンド「明治期におけるアット・ホーム--日本の家庭生活の創出」
- ミリアム・シルヴァーバーグ「近代日本に給仕するカフェの女給」
- 6,歴史
- カレン・ウィゲン「信濃の構築--新=伝統的地域の創出」
- アンドリュー・バーシェイ「『二重の残酷』--マルクス主義と日本資本主義の過去の現前」
- キャロル・グラック「江戸の創出」
- デペッシュ・チャクラバルティ「あとがき:伝統/モダニティの二項対立を再検証する」
こうした「伝統の創出」論に関しては、「〜〜は、近代に構築されたものである」って暴くのに何の意味があるのか、非生産的ではないかという批判がよくある。
id:morohiro_s:20051110#p1で書いた日本美術史における「制度論的転回」の成果が、「非生産的である」という言葉のもとに曖昧化され、理論フォビア=「実証」重視に向かっている現状は、その一例であろう。もちろん、イエロー・ジャーナリズム的に暴くだけでは、いけないのは確かである。近代の社会的、文化的構築体を検証するだけでなく、その意味をより深く理論的に考察しなければいけないだろう。しかし、多くのメディアにおいて、ますます「伝統」を本質的なものとして語る傾向が高まっている昨今、「暴く」作業を中断せず、それを不断に発信していくことが必要だと思う。
全然、関係のない話だが、編者のヴラストス氏、以前fukayaさんに薦められた
平出隆『
白球礼讃―ベースボールよ永遠に (岩波新書)』に、留学先の日本研究者として登場したのには吃驚した。