花洛一覧図

先日、一本原稿(久しぶりに泥絵について)を脱稿したが、あと二本待っている。一本は、以前に発表したもの(id:morohiro_s:20050314#p1)を改稿する。もう一本は、黄華山の《花洛一覧図》(→http://opac.lib.ryukoku.ac.jp/HTML/K26.html)について扱う。泥絵もそうだが、最近ちょっと近世づいている。近代ばっかりやってて、半分忘れかけてたが、久しぶりに手を着けると面白い。
黄華山は、横山華山ともいう。さて、夏目漱石の『坊ちゃん』に、主人公が下宿の亭主に道具を売りつけられそうになるシーンがある。

今度は華山とか何とか云う男の花鳥の掛物をもって来た。自分で床の間へかけて、
いい出来じゃありませんかと云うから、そうかなと好加減に挨拶をすると、華山
には二人ある、一人は何とか華山で、一人は何とか華山ですが、この幅はその何
とか華山の方だと、くだらない講釈をしたあとで、どうです、あなたなら十五円
にしておきます。お買いなさいと催促をする。
   =青空文庫(→図書カード:坊っちゃん)より

ここで出てくる「何とか華山」の一人が黄華山であろう(もう一人はいわずと知れた渡辺崋山)。岸駒、呉春に学び、花鳥人物山水と何でもこなす、なかなかの人気絵師であったようである。
彼が描いて、木版で出版されたものが、《花洛一覧図》(1808年)である。19世紀初頭の京都を鳥瞰で描いたもので、鍬形ケイ*1斎の《江戸名所絵》と同時代で、幕末の歌川貞秀、さらには大正期の吉田初三郎へと続く都市鳥瞰図の流れにある。
とりあえず資料を読み返す。

  • 岸文和「菊屋版《うきゑ京中一目細見之図》について--はじめての「都市鳥瞰図」『国華』1214号、1997
  • ヘンリー・スミス「一覧図の政治学--幕末期における五雲亭貞秀の国土像」黒田日出男ほか編『地図と絵図の政治文化史』東京大学出版会、2001*2
  • 矢守一彦『古地図と風景』筑摩書房1984
  • 横山昭「もう一人の華山」(上・下)『日本美術工芸』525、526号、1982
  • 木村重圭「曽我蕭白と横山華山」『日本美術工芸』620号、1990
  • スヴェトラーナ・アルパース『描写の芸術―一七世紀のオランダ絵画』ありな書房、1993

もう少し、貞秀関係も当たらねば。

*1:草がんむりに「恵」

*2:ふぎゃっ。修士課程(スミス先生)、博士課程(岸先生)の両指導教授が並んでしまった・・・